戦争は一夜にして我々の日常を奪う
その悲劇は紙と木で作られた街を襲った
十万人を超える犠牲者を出した東京大空襲の生存者の最後の言葉を
オーストラリア人のドキュメンタリー映画監督がいま語り継ぐ
日本人が忘れかけている東京大空襲の悲劇 生き延びた生存者の記憶と証言
1945年3月10日午前0時過ぎ、アメリカ軍の爆撃機が東京を襲撃し、木造の家屋や多くの紙材が密集していた街に火の粉を浴びせた。日の出までに10万人以上の死者を出し、東京の4分の1が焼失した史上最大の空襲だった。この凄まじい記憶が今もなお生存者の脳裏に焼きついている。戦争や空襲の記憶が失われつつある今、未曾有の悲劇の体験を後世に残そうとする3人の生存者に肉薄する。本作は東京を拠点にするオーストラリア人映画監督エイドリアン・フランシスの長編ドキュメンタリー・デビュー作。この悲劇で私たちは何を記憶し、なぜ忘れようとしているのか。ロシアによるウクライナ侵攻から1年。戦争の影がしのび込んでくる今、生存者の体験と未来への思いを見つめる。
遠く故郷を離れた地、日本。そこで出会った人々。自国オーストリアで教わることのなかった歴史とその真実を映画監督が探求する姿を捉えた、心揺さぶるドキュメンタリー。
監督の言葉 by エイドリアン・フランシス
広島の平和記念資料館や、ドイツのホロコースト記念碑、そしてニューヨーク9.11記念碑などは、世界中の人々が訪れ、過去の出来事を知り、学び、犠牲になった方への敬意を払う場となっています。ですが、東京大空襲に関しては独立した公的な慰霊碑は建てられていません。
第二次世界大戦時、日本とオーストラリアは敵同士でした。なので、私の出身国であるオーストラリアの学校では日本がどのような被害にあったかをほとんど教えられてきませんでした。ドキュメンタリー映画『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』を観たときに初めて東京大空襲について学び、たった一夜で10万人もの人が命を落としたいう、言葉を失うような事実を知りました。東京に住みはじめて15年。今思うのは、「歴史上もっとも破壊的な空襲」であったにも関わらず、東京の街にはその跡がほとんど残されていない、ということです。
生存者は生きているのだろうか。東京大空襲を語り継ぎたくなかったのだろうか。それとも、忘れてしまいたかったのだろうか。
私は生存者の方々に連絡を取ることを決めました。オーストラリア人の私は、彼らに警戒されてしまうのではないかと不安でしたが、3人の生存者の方が当時の記憶や経験を語ってくれました。
彼らは後世にも記憶に残るものを残したいはず。何か大切なことを残したいという気持ちは、映画監 督である私にも強く響きました。聞いてもらいたい、知ってもらいたい、覚えていてもらいたい。彼らが一番恐れているのは、自分たちが語り継がなければ、空襲がなかったかのように、私たちの記憶から消え、風化してしまうことだと感じました。
2021年/オーストラリア/80分
原題:Paper City
配給:フェザーフィルムス
監督:エイドリアン・フランシス
製作:メラニー・ブラント
製作総指揮:ソフィー・ハイド、レベッカ・サマートン、デビッド・フェドマン
撮影:ブレット・ルデマン
編集:エイドリアン・フランシス、ルカ・カペリ
音楽:サイモン・ウォルブルック
清岡美知子、星野弘、築山実