FEMMES À CANNES
RÉALISATRICES AU FESTIVAL DE CANNES
時期を7月に移し、2年ぶりにフィジカル開催を果たした今年のカンヌ映画祭。本特集は、同映画祭74回の歴史の中で紹介されたフランスの女性監督を特集します。2015年に女性で初めてカンヌにおけるパルム・ドール名誉賞を受賞した女性監督の先駆者、アニエス・ ヴァルダ。映画づくりやものの見方を一新させ、現在も世界の映画作家に多大な影響を与え続けているベルギーのシャンタル・アケルマン。80年代後半~90年代以降に、独自のスタイルでフランス映画に新たな風を吹き込んでいったクレール・ドゥニ、パトリシア・マズィ、また次世代を担う才能として目が離せないミア・ハンセン=ラブ、セリーヌ・シアマなど、その多様で豊かな作品群を通して、女性監督たちがつくりだしてきた映画芸術の歴史をたどります。
2015年カンヌ映画祭パルム・ドール名誉賞受賞
アニエス・ヴァルダ AGNÈS VARDA
世界中の映画作家やシネフィルから愛され、映画史にその名を刻むアニエス・ヴァルダ。アメリカで撮影された貴重な日本未公開作品を上映。
壁画・壁画たち
Mur murs d’Agnès Varda
1980年/フランス=アメリカ/82分 © DR
監督:アニエス・ヴァルダ
出演:ジュリエット・ベルト、マチュー・ドゥミ、アニエス・ヴァルダ
ロサンゼルスのストリートアートを捉えたドキュメンタリー。壁画とその作者、モデルたちがしばしば同時に撮影されている。メキシコ移民による壁画にスポットが当てられ、アメリカ政府による国家的暴力が彼らのコミュニティーやそのアートに及ぼした影響も考察される。Los Illegalsに代表されるメキシコ系パンクロックのパフォーマンスもフィーチャーされ、当時の熱気と創造性が伝わってくる。
ブラックパンサーズ
Black Panthers d’Agnès Varda
1968年/フランス=アメリカ/28分 © DR
監督:アニエス・ヴァルダ
出演: H.ラップ・ブラウン、ストークリー・カーマイケル、エルドリッジ・クリーヴァー
1968年オークランドでブラックパンサー党のリーダー、ヒューイ・P・ニュートンの裁判の際に起こった抗議の様子を追ったドキュメンタリー。フランスで5月革命が起こるなか、アメリカではブラックパンサー党が演説やデモを行い、急進的な活動を展開しながら黒人解放を提唱していた。また女性たちも声を挙げ、自身の権利、そして黒人であることへの誇りを表明した。本作は短い映像のなかで、アメリカ系黒人の苦難の歴史における特別な瞬間を捉えている。
ドキュモントゥール
Documenteur d’Agnès Varda
1981年/フランス=アメリカ/65分 © DR
監督:アニエス・ヴァルダ
出演:サビーヌ・マム、マチュー・ドゥミ、デルフィーヌ・セイリグ(ナレーション)
愛する人と別れたエミリーは、喪失感のなか、ロサンゼルスで8歳の息子と静かな生活を紡いでいる。映画の仕事でタイピストをしている彼女は、ある日、海辺にでかけ、目の前の海に自分の人生を重ねあわせながらタイプライターを打つ。過去の情熱の記憶がよみがえり、心が掻き乱されるが、息子にすべての愛情を捧げることで失望から立ち上がろうとする。その胸のうちにある困惑は、彼女自身よりも、彼女が眼差しを向ける他者によって映しだされていく。
ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン
Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles de Chantal Akerman
◆1975年カンヌ映画祭 監督週間部門出品
1975年/ベルギー=フランス/200分 © DR
監督:シャンタル・アケルマン
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジャン・ドゥコルト、アンリ・ストルク
45歳のジャンヌは、16歳の息子と二人暮らしをしている。息子が学校に行っている間、彼女は「客」をとっている。湯を沸かし、ジャガイモの皮をむき、買い物にでかけ、食事をし、眠りにつく…。シャンタル・アケルマンは、ジャンヌの「平凡な」暮らしを執拗なまでに描写しながら、やがて訪れる反日常に至る、ぞっとするような時空間を見事につくりだし、映画に革命を起こした。その後も、フィクション、ドキュメンタリー、実験映画、文学の脚色など、様々なジャンルで新しい映画の形態を探求し、現代映画の可能性を率先して見いだしていった。
走り来る男
Peaux de vaches de Patricia Mazuy
◆1989年カンヌ映画祭 ある視点部門出品
1988年/フランス/87分 © DR
監督:パトリシア・マズィ
出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、サンドリーヌ・ボネール、ジャック・スピエセル
北フランスのある田舎町、ジェラールは兄とともに酩酊し、農場に火事を起こしてしまい、たまたまそこにいた浮浪者が命を落としてしまう。10年後、刑務所から出所した兄は、美しいアニーと結婚し、娘ができ、あらたに農場を持つジェラールのもとに戻ってくる…。ジャック・ドゥミ『都会のひと部屋』の編集助手、そしてアニエス・ヴァルダ『冬の旅』のアシスタントを務めた後、パトリシア・マズィは、荒涼とした風景のなか、アクションによって生まれるむき出しの感情を捉えた本作で長編デビューを飾り、その並々ならぬ才能でカンヌを震撼させた。
「『防寒帽』を見てからステヴナンのファンになり、彼のための映画を撮りたいと思っていた。帰還する男を通して、攻撃的、暴力的な側面もある現代の田舎を浮かび上がらせ、家族の中に潜むものを触発したかった。そして(ヴァルダの)『冬の旅』で発見したサンドリーヌ・ボネール、そして弟役にジャック・スピエセルを見出し、映画は始動し始めた。」パトリシア・マズィ
レット・ザ・サンシャイン・イン
Un Beau Soleil Intérieur
◆2017年カンヌ映画祭 監督週間部門SACD賞受賞
2017年/フランス/95分 © Curiosa Films – FD Production – Ad Vitam – Versus production
監督:クレール・ドゥニ
出演:ジュリエット・ビノシュ、グザヴィエ・ボーヴォワ、フィリップ・カトリーヌ、ジェラール・ドパルデュー
シングルマザーでアーティストのイザベル。奔放で恋愛に積極的な彼女は、人生の伴侶を求めデートを繰り返すが、上手くいかず……。名匠ドゥニ監督が描く、大人の女の恋愛コメディ・ドラマ。
「カミーユはジュリエットそのものです。胸の開いたTシャツ、ミニスカートにニーハイブーツを纏い、女らしくあることを恐れない女性。そしてそのジュリエットが踊る“At Last”を歌うエタ・ジェイムズ、彼女自身についての映画でもあります。」(クレール・ドゥニ)
「この素晴らしい初のラブ・コメディにて、クレール・ドゥニはジュリエット・ビノッシュを陶然とさせるような誘惑のバレーの只中に誘い込む。」(「リベラシオン」)
すべてが許される
Tout est pardonné de Mia Hansen-Løve
【肌蹴る光線 共催企画】 ◆2007年カンヌ映画祭 監督週間部門出品/2007年ルイ・デリュック賞受賞
2006年/フランス=オーストリア/105分 © DR
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:ポール・ブラン、コンスタンス・ルソー、マリークリスティーヌ・フリードリッヒ
ウィーンで妻のアネットと幼い娘パメラと暮らすヴィクトールは、仕事もせず、放埓な生活を送っていた。パリに戻ってもそれは変わらず、ついにアネットは娘と一緒に彼の前から姿を消す。それから11年後、パリで母と暮らしている17歳になったパメラは、ある日、同じ街に父が暮らしていることを知り、会いに行くことを決意する…。ミア・ハンセン=ラヴが25歳で撮った長編デビュー作。自伝的要素からスタートし、場所や俳優の「今とここ」を捉えながら、語る対象への洞察力に富むその距離感は、すでに成熟した才能を感じさせ、その年の最も優れた新人に送られるルイ・デリュック賞を受賞。また長編二作目『あの夏の子供たち』では、2009年カンヌ映画祭ある視点部門審査員特別賞を受賞。確実に大きな存在として成長し続け、新作“Bergman Island”は今年の同映画祭コンペティション部門にてベールを脱ぐ。
ソルフェリーノの戦い
La bataille de Solférino
◆2013年カンヌ映画祭 ACID部門出品
2013年/フランス/94分 © DR
監督:ジュスティーヌ・トリエ(『ヴィクトリア』)
出演:レティシア・ドッシュ、ヴァンサン・マケーニュ、アルチュール・アラリ、ヴィルジル・ヴェルニエ、マルク=アントワーヌ・ヴォージョワ
2012年5月6日、大統領選の第2回投票を取材するテレビリポーターのレティシアのもとに、元夫のヴァンサンが娘たちに会いに押しかけて来て戦いが始まった! 実際に大統領選が行われている現場で撮られたトリエ監督の長編第1作。
「『ソルフェリーノの戦い』は悪夢へと転じる一日を描く、スコセッシの『アフター・アワーズ』にも近い熱に浮かされたようなコメディであり、愛と政治が混在している叙事詩的映画である。この作品のドキュメンタリー側面(作品の大半はパリの歩道、バスティーユ広場やフランス社会党の本部などで2012年5月6日に撮影されている。)は、実験的な作品を作るためではなく、現在起こっている歴史な出来事を恐れずに捉える自分たちの生きる時代についての作品のためにある。」(ステファン・デュ・メスニルド、「カイエ・デュ・シネマ」)
ヴィクトリア
Victoria
◆2016年カンヌ映画祭 国際批評家週間オープニング作品
2016年/フランス/97分 © DR
監督:ジュスティーヌ・トリエ(『ソルフェリーノの戦い』)
出演:ヴィルジニー・エフィラ、ヴァンサン・ラコスト、メルヴィル・プポー
弁護士のヴィクトリアは出席した結婚式で、昔の友人ヴァンサンと、以前担当した薬物事件の依頼人サムに再会する。ヴァンサンはその晩、恋人の殺害未遂容疑で逮捕され、仕方なく弁護を引き受けたヴィクトリアだったが、元夫の迷惑行為に対応したり、なぜかサムを住込みのベビーシッターとして雇うことになったり、数々の波乱が巻き起こる…。人気沸騰中の女優ヴィルジニー・エフィラ(『ELLE エル』、『大人の恋の測り方』)が仕事、家庭、恋愛の間で、自分の生き方を模索する現代的女性を魅力的に演じ、新世代の注目株ヴァンサン・ラコストもその魅力を十二分に発揮、さらにメルヴィル・プポーが油断のならない二枚目中年役を好演。監督は『ソルフェリーノの戦い』の女流監督ジュスティーヌ・トリエとなればただのドタバタコメディではありません。本国でも大ヒットの恋愛コメディ!
ガールフッド
Bande de filles de Céline Sciamma
◆2014年カンヌ映画祭 監督週間オープニング上映
2014年/フランス/113分 © DR
監督:セリーヌ・シアマ(『燃ゆる女の肖像』『トムボーイ』)
出演:カリジャ・トゥーレ、アッサ・シーラ、リンゼイ・カラモゥ
パリ郊外に住む16歳のマリエムは、忙しい母親と暴力的な兄の代わりに小さい妹たちの面倒をみる日々で、成績が悪く高校進学もままならない。そんな状況に鬱屈していたある日、不良の少女たちと出会い、つるむようになる。次第に抑圧されていた感情を吐き出すように家族とも距離を置きはじめ、彼女はひとり、より危険な世界に足を踏み入れながら、自分の人生を生きようとする…。最新作『燃ゆる女の肖像』が2019年カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞とクィア・パルム賞をW受賞し、その類稀なる才能で観るものを魅了するセリーヌ・シアマ監督が、少女たちの衝動と痛みを鮮やかに描いた傑作青春映画。
若い女
Jeune femme de Léonor Serraille
◆2017年カンヌ映画祭 新人監督賞受賞
2017年/フランス/97分 © 2017 Blue Monday Productions
監督:レオノール・セライユ
出演:レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン、スレイマン・セイ・ンディアイ
31歳のポーラは、10年付き合った写真家の恋人に突然別れを告げられる。お金も、家も、仕事もない彼女は、恋人の飼い猫とともにパリを転々とするはめに。何をやっても裏目に出てしまい、意気消沈するなか、ようやく自分の居場所を見つけたかに思えたが…。自由奔放でちょっとくせ者のヒロインが、新たな人生に向かって少しずつ前へと進んでいく。現代に生きるすべての女性に贈る、孤独と自由、そして希望の物語。レオノール・セライユが卒業制作の脚本をもとに完成させ、2017年カンヌ映画祭新人監督賞の快挙を成し遂げた鮮烈なデビュー作。現在、新作『Petit frère(原題)』製作中。
「ポーラはその中心を失うが、それは完全に周辺に追いやられるのではなく、新たな冒険の始まりを意味している。ポーラの道程に寄り添う夢想的フリー・ジャズの調べのように、この世にあらかじめ定められたものはなく、すべてはこれから作られていくのだ。」(ステファン・デュ・メスニルド、「カイエ・デュ・シネマ」)
ルチャ・リブレの女王 カサンドロ
Cassandro, the Exotico ! de Marie Losier
◆2018年カンヌ映画祭 ACID部門出品
2018年/フランス/73分 © DR
監督:マリー・ロジエ
出演:カサンドロ
満身創痍で闘い続ける“ルチャ・リブレ界のリベラーチェ”、カサンドロ。男らしいマッチョが占めるスポーツのなかで、煌びやかにメイクアップをし、美しく着飾るエクソティコのレスラーたちは、対戦相手とだけでなく偏見とも闘う。カサンドロは、そのエクソティコの頂点に立つスターだ。ドキュメンタリーの常識を打ち砕き、ポップでキッチュな世界観で独自のフィルモグラフィーを築きあげてきたマリー・ロジエによる作品は、カンヌ映画祭、ベルリン映画祭、ロッテルダム映画祭をはじめとする数々の映画祭や、ニューヨーク近代美術館、ポンピドゥー・センターなど世界有数の美術館でも上映され、国際的に高い評価を得ている。
君は愛にふさわしい
Tu mérites un amour
◆2019年カンヌ映画祭 批評家週間出品
2019年/フランス/107分 © LES FILMS DE LA BONNE MERE
監督:アフシア・エルジ
出演:アフシア・エルジ、ジェレミ・ラウルト、ジャニス・ブジアニ、ジェレミ・ラウルト ほか
何よりも大切な恋人レミの裏切りを知り、リラは苦しむ。単身ボリビアに旅立ったレミから、二人の関係はまだ終わっていないと告げられるが、その言葉によってさらに苦しむリラは、友人たちとの会話、新たな出会いの中でもがき、愛の行方を求めて彷徨う…。寄る辺なく生きる現代を若者たちの恋愛をアブデラティフ・ケシシュやアラン・ギロディの女優、エルジが初監督、主演。第72回カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、「宝石のように美しいラブストーリー」と絶賛された。タイトルはフリーダ・カーロの詩から取られている。
主催:アンスティチュ・フランセ関西
共催:出町座、シネ・ヌーヴォ、同志社大学今出川校地学生支援課
助成:アンスティチュ・フランセパリ本部
アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム オフィシャル・パートナー:CNC、笹川日仏財団、TV5 MONDE
フィルム提供及び協力:フォンダシオン・シャンタル・アケルマン - シネマテーク・ロワイヤル・ドゥ・ベルジック、ラ・トラヴェルス、ピラミッド・フィルムズ、Playtime、Ecce Film、新文芸坐、肌蹴る光線、グッチーズ・フリースクール、アット エンタテインメント、サンリス、東北新社