夢みてしまった。絶望の国で___
18歳のオザンと19歳のラマザン
差別的な入管法、1%に満たない難民認定率
それでも青春を生きる二人の物語。
5月、入管の収容者に対する非人道的な行為や環境を問題視する世論の高まりを背景に、入管法改正案は事実上、廃案となった。しかし「難民条約」を批准しながら難民認定率が1%にも満たないという日本の現状に変わりはない。故郷での迫害を逃れ、小学生のころに日本へやってきたオザン(18歳)とラマザン(19歳)は、難民申請を続けるトルコ国籍のクルド人。入管の収容を一旦解除される「仮放免許可書」を持つものの、身分は“不法滞在者”だ。いつ収容されるか分からない不安を常に感じながら夢を抱き、将来を思い描く。しかし、住民票もなく、自由に移動することも、働くこともできない。また社会の無理解によって教育の機会からも遠ざけられている。東京入管で事件が起きた。長期収容されていたラマザンの叔父メメット(38歳)が極度の体調不良を訴えたが、入管は家族らが呼んだ救急車を2度にわたり拒否。彼が病院に搬送されたのは30時間後のことだった。在留資格を求める声に、ある入管職員が嘲笑混じりに吐き捨てた。「帰ればいいんだよ。他の国行ってよ」。5年以上の取材を経て描かれる二人の若者の青春と「日常」。そこから浮かび上がるのは、救いを求め懸命に生きようとする人びとに対するこの国の差別的な仕打ちだ。かれらの希望を奪っているのは誰か?救えるのは誰か?問われているのは、スクリーンを見つめる私たちだ。
監督メッセージ
2021年、入管法「改正」案が閣議決定され、審議の末に成立は見送りとなった。しかし、私には、今も日本が難民を排除する方向に向かっているとしか思えない。
この原稿を書いている今、ニュースでは収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの続報が伝えられている。だが、なぜ彼女が亡くならねばならなかったのかについては、未だ明らかにされていない。
今回の「改正」案が見送られたからといって、この映画に出演してくれた人たちの置かれている過酷な状況は、何ひとつ変わらない。今回の映画公開にいたるまでには約5年かかった。少しでも多くの人に、日本で生きるクルド人について知ってもらいたいと思っている。
PROFILE:監督 日向史有(ひゅうが・ふみあり)
1980年東京都生まれ。2006年、ドキュメンタリージャパンに入社。東部紛争下のウクライナで徴兵制度に葛藤する若者たちを追った「銃は取るべきか」(16・NHK BS1)や在日シリア人難民の家族を1年間記録した「となりのシリア人」(16・日本テレビ)を制作。本作『東京クルド』(21)の短編版『TOKYO KURDS/東京クルド』(17・20分)で、Tokyo Docsショートドキュメンタリー・ショーケース(17)優秀賞、Hot Docsカナダ国際ドキュメンタリー映画祭(18)の正式招待作品に選出。また、ドホーク国際映画祭(18)にて上映、DMZ国際ドキュメンタリー映画祭(19)コンペティション部門にノミネートされた。テレビ版「TOKYO KURDS/東京クルド」(18・テレビ朝日・30分)は、ギャラクシー賞(18)選奨、ATP賞テレビグランプリ(18)奨励賞。近作に「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」(21・BS12)。
2021年/日本/103分
監督:日向史有
撮影:松村敏行、金沢裕司、鈴木克彦
編集:秦岳志 カラーグレーディング:織山臨 太郎
サウンドデザイン:増子彰 MA:富永憲一
プロデューサー:牧哲雄、植山英美、本木敦子
協力:日本クルド文化協会
技術協力:104 co Ltd
クルド語翻訳:チョラク・ワッカス
製作:ドキュメンタリージャパン 配給:東風
助成:文化庁文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会