【COMMENTS】
目もくらむ陰影と、完璧な構図に配置された俳優たち、そして静寂の中から響いてくる声の陶酔。これは創世期の映画が夢見た、もうひとつの完璧な形式だ。映画はこのような方向に発展していくこともできたのだ。
――黒沢清(映画監督)
愛と死と移民をテーマにした息を呑むほど見事な映画。
――RogerEbert.com
暗闇の中に限りない美しさを見出す。『ヴィタリナ』は今に通じている。
――ガーディアン
いまは亡き夫の隠された人生を知ることになるひとりの女性。
夫と対面する願いも裏切られたヴィタリナの深い苦しみ、それを乗り越え生を掴み取ろうとする彼女の強靭な意志、そして不屈の再生を遂げるその姿をこの120分のあいだに目撃することになるのだ。
――ガーディアン
ペドロ・コスタから届けられた不思議で、美しい映画。
――フィナンシャル・タイムズ
漆黒の革ジャンとヘッドスカーフで喪に服す未亡人ヴィタリナの顔。その額や頬、鋭い鼻筋。頭の丸みが影に抗いながらはっきりとした像を結びはじめる。彼女は自分自身のモニュメントとなるのだ。
――Little White Lies
『ヴィタリナ』は光と闇のあいだを遊歩する女を映画そのものに昇華させた傑作。
――ボストン・ヘラルド
沈痛な悲しみが刻まれた時間のただ中から生まれてくるイメージ、アイデア、エモーション、身体のダイナミズムに目を奪われる。ペドロ・コスタがあらたに成し遂げた、古典的メロドラマとドキュメンタリーの融合。
――ニューヨーカー
ペドロ・コスタのような映画を撮れるものなどどこにもいない。誰もが打ちのめされる傑作だ。
――アイリッシュ・タイムズ
ヴィタリナが発する言葉、悲しみに満ちたその眼差しによって観客は、魅了されると同時に気持ちが引き裂かれる衝撃を味わうだろう。
――TAKE ONE
驚異的な美意識を持った作品
――Cine-Vue
ペドロ・コスタのパワフルで荘厳な最新作
――The List
ペドロ・コスタの映画はよく見ている。彼は特別な才能を持つ監督だ。
――マノエル・ド・オリヴェイラ(映画監督)
ペドロ・コスタのように、フリッツ・ラングや溝口のような画面を撮れる人は他にいない。
――ジャン=マリー・ストローブ(映画監督)
コスタは本当に偉大だと思う。彼の映画は美しく強力だ。
――ジャック・リベット(映画監督)
【INTRODUCTION】
わたしは、ずっとここであなたを待っている
彼女は人生のすべてを語りはじめる
これは私たちの物語__
ポルトガルで2万人動員の異例の大ヒット!
リスボンの女性たちが涙した、痛みと波乱に満ちた暮らし、そしてその先にある光
ひとり、カーボ・ヴェルデからリスボンにやってきたヴィタリナ。彼女は出稼ぎに行った夫がいつか自分を呼び寄せてくれると信じて待ち続けていた。しかし、夫は数日前に亡くなり、すでに埋葬されていた。ヴィタリナは亡き夫の痕跡を探すかのように、移民たちが暮らす街にある、夫が住んだ部屋に留まる決意をする。そして、その部屋の暗がりで自らの波乱に満ちた人生を語り始める――。
カーボ・ヴェルデからの移民女性がロカルノ国際映画祭女優賞受賞の快挙!
傑作『ヴァンダの部屋』から20年、鬼才ペドロ・コスタの新たな出発点
彼女の名前はヴィタリナ――。自身の名前と同じ主人公を演じたヴィタリナ・ヴァレラ。虚実の狭間で自らの半生を言葉に託し、語りかけるその存在感は見る者を圧倒し、ロカルノ国際映画祭で女優賞を受賞した。
監督は世界を驚愕させた『ヴァンダの部屋』(2000年)から一貫して、移民街フォンタイーニャスを舞台に作品を作り続けている、ペドロ・コスタ。ひとりの女性の苛酷な人生を、暗闇と一条の光の強烈なコントラストで描き、ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞を受賞。その新たな出発点として絶賛され、世界中の映画祭が招待、リスボンでは多くの女性たちの共感を呼び公開わずか1ヶ月で2万人を動員するヒットを記録した。
【STORY】
リスボンの片隅、移民たちが暮らす、フォンタイーニャス地区。明かりも少ないこの街には多くの移民がいる。
路地には独り言をつぶやきながら歩き回る男もいた。
暗闇の空港にひとりの女が降り立った。名前はヴィタリナ。アフリカのカーボ・ヴェルデから出稼ぎに出ていた夫の危篤を知り、ポルトガルにやって来た。だがすでに夫は亡くなり葬儀は3日前にすでに終わっていた。
しかし、ヴィタリナはそのままポルトガルに留まり、夫、ジョアキンの面影を辿るように、夫が借りていた、フォンタイーニャスの薄暗い部屋で暮らし始める。
ヴィタリナは黒い服を身につけ、その部屋には十字架と花と蝋燭、そしていくつかのモノクロ写真が飾られた。
路地に暮らす人々がお悔やみを言いに次々と立ち寄る。
「死んだの?土の下にいるの?」ヴィタリナは言葉を発する。
「リスボン行きの切符が届くのを40年待った。一生待ちぼうけだよ」
「あんた驚いた? まさか私が来るとはね。死ぬときも離れていたかった?」
「私たちは1982年の12月14日に婚姻届を出し、1983年3月5日に挙式をした」
夫の思い出話をしに訪ねて来る者もいる、死に際の様子を話す者もいる。
「あんたはカーボ・ヴェルデに一時帰郷して、たった45日で10室も部屋のある立派な家をひとりで作り、ある日別れも告げずにポルトガルに帰って行った。私はまだ名もない娘を身篭りながら働いた」
ヴィタリナは、近くの荒れた土地に鎌を入れ耕し始める。
路地には神父がいた。独り言を言いながら歩いていた男だ。
誰も祈りにすら来ない荒れ果てた教会にヴィタリナがやってきた。
「神父、私を忘れたの?7日前に夫を埋葬した」
「昔、あなたの教区で、あなたを助けたことを覚えてる?」
ヴィタリナは雨が屋根を強く打ちつける夜にひとりつぶやく。
「この近所の男どもはみんな、悲しげで酔っ払いばかり。つられてあんたも怠け者になって。
自分で死へと向かって行った」
教会で神父の礼拝を受けるヴィタリナ。
ヴィタリナの暮らす部屋には誰彼なく訪れ、自らの人生や暮らしの辛さを吐露していく。
ヴィタリナは言う
「この家に入った女がもうひとりだけいた。名はヴィタリナ。もうひとりのヴィタリナ。私と違うヴィタリナ。女は彼の財産を持ち去り、彼は一文無し」
霊はポルトガル語しか理解できないと神父は言う。
何かポルトガル語の文章を誦んじるヴィタリナ。
夫から届いた手紙をカバンから取り出した。
丘にある墓地に埋葬された夫。
そこにはヴィタリナと神父の姿があった。
屋根の上で作業する音。そこにはひとりの男。
家の中から出てきた女は、屋根にブロックを運ぶ。
これはヴィタリナの思い出なのだろうか。
【FILMMAKER】
ペドロ・コスタ Pedro Costa
1959年ポルトガルのリスボン生まれ。リスボン大学で歴史と文学を専攻。青年時代には、ロックに傾倒し、パンクロックのバンドに参加する。リスボンの国立映画学校に学び、詩人・映画監督のアントニオ・レイスに師事。ジョアン・ボテリョ、ジョルジュ・シルヴァ・メロらの作品に助監督として参加。1987年に短編『Cartas a Julia(ジュリアへの手紙)』を監督。1989年長編劇映画第1作『血』を発表。第1作にしてヴェネチア国際映画祭でワールド・プレミア上映された。以後、カーボ・ヴェルデで撮影した長編第2作『溶岩の家』(1994、カンヌ国際映画祭ある視点部門出品)、『骨』(1997)でポルトガルを代表する監督のひとりとして世界的に注目される。その後、少人数のスタッフにより、『骨』の舞台になったリスボンのスラム街フォンタイーニャス地区で、ヴァンダ・ドゥアルテとその家族を2年間にわたって撮影し、『ヴァンダの部屋』(2000)を発表、ロカルノ国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭で受賞した後、日本で初めて劇場公開され、特集上映も行われた。『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(2001)の後、『コロッサル・ユース』(2006)は、『ヴァンダの部屋』に続いてフォンタイーニャス地区にいた人々を撮り、カンヌ映画祭コンペティション部門ほか世界各地の映画祭で上映され、高い評価を受けた。山形国際ドキュメンタリー映画祭2007に審査員として参加。2009年にはフランス人女優ジャンヌ・バリバールの音楽活動を記録した『何も変えてはならない』を発表。また、マノエル・ド・オリヴェイラ、アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセらとともにオムニバス作品『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(2012)の一篇『スウィート・エクソシスト』を監督している。前作『ホース・マネー』は、2014年ロカルノ国際映画祭で最優秀監督賞、2015年には山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞した。2015年のニューヨークのリンカーンセンターのほか、世界各地でレトロスペクティブが開催されている。最新作である本作『ヴィタリナ』は、2019年ロカルノ国際映画祭で金豹賞&女優賞をダブル受賞、その後世界中の国際映画祭で上映、劇場公開が続いている。2019年東京フィルメックスで特別招待作品として日本初上映され、賞賛と驚きをもって迎えられた。
●フィルモグラフィー
・『Cartas a Julia(ジュリアへの手紙)』(1987年)短編
・『血』(1989年)
・『溶岩の家』(1994年)
・『骨』(1997年)
・『ヴァンダの部屋』(2000年)
・『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(2001年)
・『六つのバガテル』(2002年)短編
・『コロッサル・ユース』(2006年)
・『うさぎ狩り』(2007年)オムニバス作品「メモリーズ」の一篇
・『タラファル』(2007年)オムニバス作品「世界の現状」の一篇
・『何も変えてはならない』(2009年)
・『わたしたちの男』(2010年)短編
・『スウィート・エクソシスト』(2012年)オムニバス作品「ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区」の一篇
・『ホース・マネー』(2014年)
・『ヴィタリナ』(2019年)
2019年/ポルトガル/ポルトガル語・クレオール語/130分
原題:Vitalina Varela
配給:シネマトリックス
監督:ペドロ・コスタ
撮影:レオナルド・シモンエス
編集:ジュアン・ディアス、ヴィトル・カルヴァーリョ
録音:ジュアン・ガズア 整音:ウーゴ・レイタン
製作:アベル・リベイロ・シャヴェス
製作会社: Sociedade Optica Tecnica
出演:ヴィタリナ・ヴァレラ、 ヴェントゥーラ
マヌエル・タヴァレス・アルメイダ、フランシスコ・ブリト、マリナ・アルヴェス・ドミンゲス、ニルサ・フォルテス