特集 ローラント・クリックの世界

上映スケジュール

2021/10/8(金)〜10/21(木)

【Aプログラム】
10/8(金), 10/11(月)17:20‐(18:35終)
10/17(日),10/20(水)19:25‐(20:40終)

【Bプログラム】
10/9(土), 10/13(水)17:20‐(18:50終)
10/15(金),10/18(月),10/21(木)19:25‐(20:55終)

【Cプログラム】
10/10(日), 10/12(火),10/14(木)17:20‐(18:55終)
10/16(土),10/19(火)19:25‐(21:00終)

*10/21で終映

『デッドロック』
10/1(金)〜10/7(木)11:05-
10/8(金)〜10/14(木)15:40-
*10/14で終映

料金

通常料金設定

Aプログラム(68分)『ルートヴィヒ』16分+『ジミー・オルフェウス』52分
Bプログラム(84分)『スーパーマーケット』
Cプログラム(92分)『ホワイトスター』
★『デッドロック』のみ通常興行にて10/1(金)〜10/14(木)上映!

【レクチャー】

10/15(金)『スーパーマーケット』上映後「ローラント・クリックとは何者か ニュージャーマンシネマの異端者だった理由」
10/16(土)『ホワイトスター』上映後「ローラント・クリック映画を解体する シナリオ・演出・台詞・リアリズム」
10/17(日)『ルートヴィヒ』&『ジミーオルフェウス』上映後「上映作品解説」*ショートレクチャー

登壇:渋谷哲也さん(ドイツ映画研究・日本大学文理学部教授/本特集企画・字幕翻訳)
詳細は▶こちら◀

【ご注意事項】
*映画ご鑑賞の電話予約を受け付けております。詳しくは▶こちら◀
*ただいま感染症拡大予防のご案内をしております。▶こちら◀
*本件は諸事情により中止または登壇者が変更になる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
*いかなる事情が生じましても、ご購入・お引換後の鑑賞券の変更や払い戻しは致しません。
*無断で撮影・録音を行う、感染症予防対策に準じていただけない等、非常識な行動が見受けられた際は、当方の判断でご退出いただく場合があります。

ローラント・クリックとは何者か。
その本領がついにわれらの前に立ち現れる。スクリーンという名の荒野に、いざ来たれ!


 
 

“ニュージャーマン”ではなく“ニューグローバルシネマ”の先駆者として

2019年7月4日、ローラント・クリック監督80歳の誕生日がベルリンのミニシアター『ヴォルフ・キノ』で祝われた。多くの来客の中にひときわ目立つ大柄の人物がいた。ヴィム・ヴェンダースだった。二人は親友だそうだ。たしかに彼らの映画は当初からドイツという枠を外れて遥かな世界を指向していた。ただしヴェンダースは「ロードムービー」ジャンルに故郷を失くし彷徨する戦後ドイツのアイデンティティを探ることで、ニュー”ジャーマン”シネマと呼びうる批判性を常に纏っていた。一方クリックは地域へのこだわりを示すことなく、ある時はドイツの田舎、大都市、そしてイスラエルの砂漠を自由に移動し、スタイルも様々に独自の世界を貫いてきた。『デッドロック』の砂漠を切り取る風景の蓄積、『スーパーマーケット』では都会の若者たちに密着し移動するカメラ、そして『ホワイトスター』はアメリカに渡ることなくアメリカを呼び寄せて80年代インディペンデント映画の典型を生み出した。それらの映画に共通するのはちっぽけな人間の意地を偏見なきまなざしで捉えることである。金に執着するのは現実だ。だが彼らが求めるのはそんな物質的な満足に過ぎないのだろうか。あまりに自由で過激すぎるクリックは”ニュージャーマンシネマ“から排除されてきたが、次第に国籍で文化を語る時代ではなくなりつつある。そうしてクリックが”ニューグローバルシネマ”の第一人者として迎えられる時代に到達したのではないか。

  渋谷哲也

 
 


 

ルートヴィヒ Ludwig

1964年/16分/DCP上映 © Filmgalerie 451 *【A】プログラムにて上映

監督・脚本・編集・音楽:ローラント・クリック
撮影:ローラント・クリック、ヨッヘン・M・チェルハック
出演:オットー・ザンダー、エヴァ・ファン・ショーア

若き日のオットー・ザンダーを起用し、小さな農村の日常的なひとコマを構成する短編作品。ごく小規模なインディペンデントの体制でクリックにより撮影され編集された16分は、言葉によらぬ身体的・空間的な運動が映画的エモーションを喚起するに余りある。

 
 


 

ジミー・オルフェウス Jimmy Orpheus

1966年/52分/DCP上映 © Filmgalerie 451 *【A】プログラムにて上映

監督・脚本・編集・音楽:ローラント・クリック
撮影:ロベルト・ファン・アケレン
出演:クラウス・シハン、オルトルート・ベギネン

ある晩酔っぱらって宿泊所に戻れなくなった男は、酒場を転々とするうちに一人の女性と出会い、夜のハンブルクの街の冒険を始める。日雇い港湾労働者クリストフ(通称ジミー)を主人公に描く一夜の物語。現代の「オルフェウスとエウリディケ」。

 
 


 

デッドロック Deadlock

1970年/85分/DCP上映 © Filmgalerie 451  *10/1(金)〜10/14(木)2週間上映!

監督・脚本・製作:ローラント・クリック
撮影:ロベルト・ファン・アケレン 音楽:CAN
出演:マリオ・アドルフ、アンソニー・ドーソン、マルクバルト・ボーム、マーシャ・ラベン、ベティ・シーガル

アメリカのどこか、砂漠の中の寒村で、100万ドルの札束を奪い合う男たち、白日のもとに乳房をさらけ出す狂女、口をきけない美少女、謎の行商人と非情な鉄道員……登場人物わずか7人が灼熱の荒野に繰り広げる非情の饗宴。“ニュー・ジャーマン・シネマの孤狼” ローラント・クリックが放った、凶暴でサイケな白昼夢!ジャーマン・プログレの雄、CANのロックが殺戮の荒野に炸裂する。
★『デッドロック』については▶こちら◀をご参照ください。
 
 


 

スーパーマーケット Supermarkt

1973年/84分/DCP上映 © Filmgalerie 451 *【B】プログラムにて上映

監督・脚本・製作:ローラント・クリック
共同脚本:ゲオルク・アルタマー、ジェーン・スパー
撮影:ヨスト・ヴァカーノ
音楽:ピーター・ヘスレイン BGM:ウド・リンデンバーグ タイトル曲:マリウス・ウェスト
出演:チャーリー・ヴィアジェイェフスキ、エファ・マッテス、ミヒャエル・デーゲン、ワルター・コウト、ハンス・マイケル・レバーグ

スーパーマン、スーパーガール、スーパーマーケット。何でも買える世界。夢は現金で。払った人が正しい。お金を払えない人は、銃を撃つ……。「鉄製のチェックカードで買い物をする技術についての映画」(クリック)であり、スコセッシの『タクシードライバー』『ミーン・ストリート』を彷彿とさせる都会のジャングルで繰り広げられるアクションスリラー!

 


 

ホワイトスター White Star

1983年/92分/DCP上映 © Filmgalerie 451 *【C】プログラムにて上映

監督・脚本:ローラント・クリック
撮影:ユルゲン・ユルゲス
音楽:ベルンハルト・ヨブスキー
出演:デニス・ホッパー、テレンス・ロベイ、ラモーナ・スウィーニー、デビッド・ヘス

極限の演出と暴走する演技!デニス・ホッパー演じるロックツアーマネージャーは苛烈なショービジネス界を生き抜いてきた。彼はどんな手段も厭わず、自身の晩年に最後の花を咲かせようと画策する。ホワイトスターのホワイトとは……コカイン中毒で誇大妄想のホッパーが映画を爆発させる。
 
 
 


 

ローラント・クリック Roland Klick 略歴

1939年7月4日生まれ。ドイツ北部の小都市で育つ。映画を志すまではジャズ・ミュージシャンや画家として活動していた。ミュンヘンの映画テレビ・インスティトゥートで演劇学を学び、その間に初めてシナリオを執筆し、カメラマンとして映画の現場に参加した。62年より短編映画の製作を始める。第一作は“Weihnacht(クリスマス)”(62)。最初の長編映画となる『ジミー・オルフェウス』(66)撮影中に製作会社が倒産し、それまでの撮影素材をまとめて中編映画として完成された。次作として『デッドロック』の共同製作者を探しにローマに滞在した時、フェリーニの『サテリコン』の準備作業に参加する。その時に読んだ新聞記事から着想を得てクリックは“Bübchen(男の子)”(68)を監督し、これが長編第一作となる。11歳の少年が理由もなく幼い妹を殺害し、父がそれを発見し事件のもみ消しを図る物語である。この製作時期にはクリックには息子が生まれるが、映画の完成直後に妻を不慮の事故で失くす。クリックはそのまま次の映画に没入し、イスラエルのネゲブ砂漠で予算払底の危機に直面しながら『デッドロック』(70)を撮影する。本作は興行・批評共に成功を収め、70年代のカルト映画の地位を獲得する。クリックは次作にもウェスタンを希望されるが、彼は全く方向性を変えてドイツの大都市ハンブルクの青年犯罪ドラマ『スーパーマーケット』(73/74)を監督する。その後も数年に一作のペースで監督作を発表するが、ベルリンのツォー駅周辺にたむろすドラッグ中毒の若者たちの生態を捉えた“WIR KINDER VOM BAHNHOF ZOO(われらツォー駅の子供たち)”の製作はいよいよ撮影開始となる直前にプロデューサーと決裂し、クリックは監督を降板する。本作はウルリヒ・エーデル監督作『クリスチーネ・F』 (81)として完成公開されたが、クレジットにはクリックの名前は登場しない。クリックは再び自身の製作で『ホワイト・スター』(81/82)に着手する。だがプロデューサとしてハリウッドスターのデニス・ホッパーの世話と監督との両立に多大な労力を費やし、シナリオ通りの撮影ができぬまま映画を完成させたが、本作はクリックに4度目のドイツ映画賞をもたらした。その後クリックは女性二人のアクションコメディ“SCHLUCKAUF(しゃっくり)”(89)を完成させたがプロデューサとの確執があり、正式な一般公開はされなかった。その後クリックは映画業界から身を引き作品は発表せず、映画大学での講師や映画理論書の執筆などを行っている。

 

企画:渋谷哲也(ドイツ映画研究/日本大学文理学部教授)、出町座
協力:Filmgalerie 451