ロカルノ映画祭で金豹賞と女優賞を受賞した最新作『ヴィタリナ(仮題)』が第20回東京フィルメックスの特別招待部門で上映されるポストガルの鬼才、ペドロ・コスタを迎え、日本ではなかなか上映される機会のない初期の作品2本、『血』と『溶岩の家』を上映します。
「人々が互いに行いあうこと、つまり私が誰かにしてあげること、誰かが私にしてくれること、おぞましさ、恐怖、苦痛といった究極の状態から完全な愛にいたるすべてのもの。善悪は天上にも地獄にもなく、そうした人々のあいだに存在しており、映画はそれを見せるものである」ーーペドロ・コスタ
血 O Sangue
1989年/ポルトガル/日本語字幕付き/モノクロ/95分
監督:ペドロ・コスタ
製作:ヴィクトル・ゴンザルベシュ
撮影:マルティン・シェーファー(『さすらい』)
編集:マヌエラ・ヴィエガス
出演:ペドロ・エストネス、ヌーノ・フェレイラ、イネス・デ・メデイロス、ルイス・ミゲル・シントラ ほか
クリスマスの近づくある冬の夜、父親の行動に疑いを持つ青年ヴィセンテは彼を薬で殺し、恋人クララともに、遺体を埋める。そのことを弟ニーノに伝えないまま生活を続けようとするが、父の消息を尋ねる男たちや伯父によってそれは崩れていく。フィルム・ノワールを思わせるようなモノクロームの映像の中で、不安に苛まれながら生きる若者たちの表情が浮かび上がる。ペドロ・コスタ長編処女作。主演女優イネス・デ・メディロスについてコスタ自身「自分の女性的な面を体現している」と語っており、その後も『溶岩の家』、『骨』に連続して出演している。
溶岩の家 Casa de Lava
1994年/ポルトガル=フランス=ドイツ/日本語字幕付き/カラー/110分
監督:ペドロ・コスタ
製作:パウロ・ブランコ
撮影:エマニュエル・マシュエル
編集:ドミニク・オーヴレイ
録音:アンリ・マイコフ
出演:イネス・デ・メデイロス、イサック・デ・バンコレ、エディット・スコブ、ペドロ・エスネス ほか
看護婦のマリアーナは、リスポンの工事現場で意識不明となった男レオンに付き添って彼の故郷カーポヴェルデ島に向かうが、ヘリコプターがもどるまでその島の病院にとどまることを余儀なくされる。予期しない滞在のなかで島の人々ともつながりができていくものの、回復するにつれ傲慢な振る舞いを見せるレオンに失望する。荒々しい色彩と感情に彩られた作品。『顔のない眼』などジョルジュ・フランジュの映画に数多く出演し、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』での出演が記憶に新しいエディット・スコブ、今年6月にこの世を去った伝説的女優が特別出演している。
この映画の出発点にあったのは、1991年から93年のポルトガルの政治や社会状況への嫌悪だ。ポルトガルの外で映画を撮ること……。最初の脚本についての漠然とした記憶は小説的なもので、エキゾチックな、ジャック・ターナーの『ブードゥリアン』(1943)、コンラッドの小説『ロード・ジム』、フリッツ・ラングの映画の模倣のようなものだった。(…)私にとって政治は隠されたもの、口を塞がれ、売られた人々の手がかりのない暗い廊下、死の廊下だ。私がもっと興味があるのは、しるしであり、皮膚だ。それがエディット・スコブとやりたかったことだ。彼女は沈黙の偉大な貯蔵庫なんだ。
ペドロ・コスタ
主催:出町座、ヴュッター公園
協力:アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:東京フィルメックス2019、ペドロ・コスタ、シネマトリックス
字幕制作協力:ヴュッター公園、アテネ・フランセ文化センター