映画が変革していった50年代末から60年代初頭
巨匠ジャン・ルノワールの最晩年、円熟の2傑作が【4Kレストア版】で甦る!
この歳になってようやく、ジャン・ルノワールの映画を発見した思いでいる。
彼は自分が認識していたよりも、さらに、遥かに凄かったのだ。
観返せば観返すほど(歳をとればとるほど?)
ジャン・ルノワールの映画は面白い!
_______________________________ 濱口⻯介(映画監督)
コルドリエ博士の遺言 4Kレストア
1959年/モノクロ/スタンダード/96分 Le Testament du docteur Cordelier
出演:ジャン=ルイ・バロー、テディ・ビリス、ミシェル・ヴィトルド、ミシュリーヌ・ギャリ
それは神の領域に触れる禁断の実験。『ジキル博士とハイド氏』をルノワール流に大胆に翻案。
「テレビ」「映画」「舞台」を交錯させた実験精神溢れる異端の作品!
当時、新たなメディアとして登場したテレビ向けの企画として製作された本作は、従来の映画とは違った演劇や舞台のスタイルを取り入れている。複数のカメラで同時に撮影する「マルチプルカメラ」の手法が採用され、ルノワールは俳優をカメラから解放しようと試みる。これにより俳優たちはカメラに向けて演技をするのではなく、自分のリズムとペースで演技をすることが可能となった。撮影前には入念なリハーサルが繰り返され、舞台演劇のように綿密な打ち合わせが行われた。ルノワールは50年代中盤から舞台演出も手がけており、「芝居でやった仕事から生まれた実験映画である」と本作について語っている。主演はマルセル・カルネの『天井桟敷の人々』(45)のジャン=ルイ・バロー。本作ではジキルとハイドをモチーフにした「コルドリエ博士」と「オパール」を見事に演じきり新境地を開拓。彼の優雅な身のこなしとダイナミックな演技は観るものを魅了する。ジャン=リュック・ゴダールとエリック・ロメールは本作をオールタイムベストの1本に挙げているほか、レオス・カラックスは2012年の『ホーリー・モーターズ』で本作のキャラクターにオマージュを捧げた「怪人メルド」を登場させている。
捕えられた伍⻑ 4Kレストア
1962年ベルリン国際映画祭 金熊賞ノミネート 1963年英国アカデミー賞 総合作品賞ノミネート
1962年/モノクロ/ビスタ/107分 Le Caporal épinglé
出演:ジャン=ピエール・カッセル、クロード・ブラッスール、クロード・リッシュ、ジャン・カルメ
ただひたすら、自由を求めて。名作『大いなる幻影』の変奏ともいうべき傑作喜劇。
生の歓びを高らかに謳い上げるルノワール最後の人生讃歌!
何度失敗しても果敢に捕虜収容所からの脱走を試みる伍⻑の姿を通して、生きる歓びと素晴らしさを描いたルノワールの遺作。自身の代表作『大いなる幻影』(37)の変奏とも言える作品だが、シリアスでペシミスティックな『大いなる幻影』に対し、本作はより軽快なタッチと魅力的なキャラクター描写により軽快な喜劇に仕上がっている。ルノワールは「敗れた者の精神についての映画を作りたかった。『大いなる幻影』はその反対に勝者の映画だった。先の大戦は私たちに一つのことを教えてくれた。そこには敗者しかないということである」と語る。『フレンチ・カンカン』(55)の成功でフランス映画界へ復帰したルノワールだったが、その後の作品は不振が続き、晩年はアメリカで暮らし母国へ帰ることは叶わなかった。何度失敗してもパリに帰りたいと願う本作の主人公の姿は、まさに自身の心情と重ね合わされていたのかもしれない。出演は『ブルジョワジーの密かな愉しみ』(72)のジャン=ピエール・カッセルと『はなればなれに』(64)のクロード・ブラッスール。エリック・ロメールは本作をオールタイムベストに挙げるほか、「カイエ・デュ・シネマ」誌にてその年のベスト10に選出された。