メーサーロシュ・マールタ監督特集

上映スケジュール

2023/7/7(金)〜8/3(木)

7/7(金)17:15-『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/8(土)17:15-『アダプション/ある母と娘の記録』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/9(日)17:15-『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/10(月)17:15-『アダプション/ある母と娘の記録』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/11(火)17:15-『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/12(水)17:15-『アダプション/ある母と娘の記録』(18:45終)/19:00-『ナイン・マンス』(20:37終)
7/13(木)17:15-『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(18:45終)/21:20-『ナイン・マンス』(22:55終)

7/14(金)21:00-『マリとユリ』(22:45終)
7/15(土)18:35-『ふたりの女、ひとつの宿命』(20:20終)
7/16(日)18:35-『マリとユリ』(20:20終)
7/17(月・祝)18:35-『ふたりの女、ひとつの宿命』(20:20終)
7/18(火)18:35-『マリとユリ』(20:20終)
7/19(水)18:35-『ふたりの女、ひとつの宿命』(20:20終)
7/20(木)18:35-『マリとユリ』(20:20終)

7/21(金)13:30-『ドント・クライ・プリティ・ガールズ!』(15:00終)
7/22(土)13:30-『アダプション/ある母と娘の記録』(15:00終)
7/23(日)13:30-『ドント・クライ・プリティ・ガールズ!』(15:00終)
7/24(月)13:30-『アダプション/ある母と娘の記録』(15:00終)
7/25(火)13:30-『ドント・クライ・プリティ・ガールズ!』(15:00終)
7/26(水)13:30-『アダプション/ある母と娘の記録』(15:00終)
7/27(木)13:30-『ドント・クライ・プリティ・ガールズ!』(15:00終)

7/28(金)13:50-『ナイン・マンス』(15:30終)
7/29(土)13:50-『マリとユリ』(15:35終)
7/30(日)13:50-『ふたりの女、ひとつの宿命』(15:36終)
7/31(月)13:50-『ナイン・マンス』(15:30終)
8/1(火)13:50-『マリとユリ』(15:35終)
8/2(水)13:50-『ふたりの女、ひとつの宿命』(15:36終)
8/3(木)13:50-『ナイン・マンス』(15:30終)
*8/3終映

料金

通常料金設定

*上映日1週間前より電話予約を受付。定員に達した時点で予約受付終了。定員未満であれば予約なしでも大丈夫です。
*券売と座席指定は当日先着順。
▶予約詳細はこちら◀

公式サイト

ハンガリーの至宝
メーサーロシュ・マールタ監督特集
女性たちのささやかな革命!

 
 

親愛なる日本の友人たちへ

2023年に日本で私の映画を上映していただけることは、大きな喜びであり光栄なことです。これらの映画は私自身と同じくとても古い映画ですが、自分の作品が新しい世代の中でも生きて楽しんでもらえることは特別な喜びです。
1980年代のある時期、私は東京国際映画祭のゲストとして日本に滞在していました。正確な年やどの作品で参加したのかは覚えていませんが、年齢に免じてご容赦ください。ですが観客が映画を理解し敏感に反応してくれたこと、そしておもてなしが素晴らしかったことはよく覚えています。私たちのために素敵な小旅行を企画してくださったおかげで、あなたたちの魅力的な国と文化を垣間見ることができました。私はずっと日本という国について、そして日本映画に興味を抱いてきました。黒澤は私にとって師匠であり、多大な影響を受けました。古い映画を見つけてくれてありがとう。自由の問題も女性の状況も私が映画を撮った頃からあまり良くはなっていないのですから、これらの作品はきっと、今の時代にも有効でしょう。

映画を見て、考えて、語り合ってください。

敬具
_________メーサーロシュ・マールタ
_________2022年11月20日、ブダペシュトにて

 
 

【メーサーロシュ・マールタ(Mészáros Márta)作家プロフィール】

1931年、ハンガリーの首都ブダペシュトに生を受ける。ファシズムが台頭する戦間期、両親とともにキルギスへ逃れるも、父親はスターリンの粛清の犠牲となり、その後、母は出産で命を落とした。ソヴィエトの児童養護施設に引き取られ、戦後ようやくハンガリーへ帰郷する。1968年から長編映画を撮り始める。残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性たちの姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃さない。
1975年の『アダプション/ある母と娘の記録』は、第25回ベルリン国際映画祭において女性監督としてもハンガリーの監督としても史上初となる金熊賞受賞の快挙を成し遂げた。その後もカンヌ国際映画祭をはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たし、同時代のアニエス・ヴァルダらと並び、もっとも重要な女性作家としての地位を確立した。最新作は2017年の“Aurora Borealis: Northern Light”。
 
 

【INTRODUCTION】

メーサーロシュ・マールタは自身の特徴的な主題(孤児、親子の関係、女性が直面する問題)を驚くほど変化に富む形で繰り返してきました。本特集ではその変奏過程を最大限体験できるラインナップを揃えております。『アダプション/ある母と娘の記録』で描かれる子をもうけることへの希望は、『ナイン・マンス』では大人たちの残酷な関係を通して、出産に至るまでの不安として変奏されます。『マリとユリ』では(『アダプション』において半ば不在として扱われた)家族の姿がつぶさに捉えられ、『アダプション』を特徴づける名状しがたい女性の連帯が、本作ではより切実な関わりあいとして提示されます。女性同士の結びつきは『ふたりの女、ひとつの宿命』において、同化という極端なまでの強度を見せます。これら4作品は数珠つなぎのように鑑賞する価値のある作品群です。メーサーロシュ作品の素晴らしさは、こうした主題の反復という作家性だけではなく、親しみやすい音楽の扱いにも認められます。娯楽映画さながらに主旋律を繰り返す作法は、その作品を誰にも開かれたものにしており、そうした音楽性がもっとも開花した作品が『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』です。同作においても主題は一貫しており、彼女の作家性をたしかに感じることができます。

 


 

 


 

ドント・クライ プリティ・ガールズ!

英題:Don’t Cry, Pretty Girls!/原題:Szép lányok, ne sírjatok!

1970年/ハンガリー/ヨーロピアン・ビスタ/モノクロ/89分/2Kレストア
字幕:高橋文子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

脚本:ズィムレ・ペーテル 脚本監修:ビロー・イヴェット 撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演アーティスト:Metro、Illés、Kex、Sziriusz、Tolcsvay Trió ほか
出演:ヤロスラヴァ・シャレロヴァー、ザラ・マールク、バラージョヴィチ・ラヨシュ

★町の不良の婚約者とミュージシャンの青年との間で揺れる女心を、バンドの演奏にのせて軽やかに描いた青春音楽映画。主人公ユリがみせる表情の微妙な変化に、最初から最後まで目が離せない!
★バーバラ・ローデンの『WANDA/ワンダ』やケリー・ライカートの『リバー・オブ・グラス』をも思い起こさせる、伝統的な逃避行劇の見事な解体。閉塞的かつ家父長的な社会から抜け出せぬ若者たちの思いを、ビート・ミュージックが鮮やかに代弁!

ビート・ミュージックのファンである若者たちは、うだつの上がらない日々を工場での労働に費やしている。ユリは不良青年のうちのひとりと婚約しているのだが、とあるミュージシャンと恋に落ちた。ギグを開くという彼とともに、ユリは小旅行へ出かける。しかし嫉妬深い婚約者と彼の不良仲間たちは執拗にふたりを追いかけ……。溢れんばかりのビート・ミュージックとともに、当時の息詰まるような社会の閉塞性がたしかに刻印された、珠玉の音楽逃避行劇。

 


 

【上映作品】

 
 

アダプション/ある母と娘の記録

英題:Adoption/原題:Örökbefogadás

1975年/ハンガリー/ビスタ/モノクロ/88分/4Kレストア
字幕:高橋文子 字幕監修:ナジ・アニタ PG12

脚本:メーサーロシュ・マールタ、ヘルナーディ・ジュラ、グルンワルスキ・フェレンツ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:コルタイ・ラヨシュ
出演:べレク・カティ、ヴィーグ・ジェンジェヴェール、フリード・ペーテル、サボー・ラースロー

★触れたら崩れてしまいそうなカタとアンナの関係をただ見守るという奇妙な体験。ハラハラともドキドキとも違う形容し難い緊張感のなか、時おり示されるふたりの親密なシーンが美しい。
★アニエス・ヴァルダが『ラ・ポワント・クールト』で交わらない視線をパートナー同士の断絶として実践したのとは対照的に、本作ではまるで親密さと比例するかのように視線の交差が慎重に避けられていく。ぜひ人物のまなざしにご注目を!

43歳のカタは工場勤務の未亡人。彼女は既婚者と不倫関係にある。カタは子どもが欲しいのだが、愛人は一向に聞き入れない。とある日カタは、寄宿学校で生活するアンナと出会い、彼女の面倒を見ることにした。次第にふたりは奇妙な友情を育んでいく。メーサーロシュの名を一躍世界に知らしめた記念すべき作品。家父長制すら歯牙にもかけぬ主人公たちの親密さを、決して見逃してはならない。

 


 

ナイン・マンス

英題:Nine Months/原題:Kilenc hónap

1976年/ハンガリー/スタンダード/カラー/94分/4Kレストア
字幕:高橋文子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ R15+

脚本:ヘルナーディ・ジュラ、コーローディ・イルディコー 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ

★互いに自分が正しいと考え、何度も強気な態度で衝突するユリとヤーノシュ。「正しいこと」は人の数だけあるのだと痛感させられる。フィクションとドキュメンタリーの境界が一気にガラガラと壊されるラストシーンには、圧倒されるしかない。
★ミケランジェロ・アントニオーニの『赤い砂漠』を手本のひとつとしたかに思われる、息詰まるような画面設計。そうした閉塞的な社会で激しくぶつかり合う男と女。相手の可能性を否定する家父長的な力学は、現代にも通用してしまう深刻なテーマだろう。

ユリは工場勤務の傍ら、農学を学んでいる。工場の上司は彼女と恋に落ちる。ユリは彼に誠実な関係を望むいっぽう、前パートナーとの間に子どもがいる事実を隠している。やがて彼女の秘密は明らかになるのだが、上司は子どもの存在を受け入れるだけの心の準備ができておらず……。ドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせたメーサーロシュが、作為性や修飾を極限にまで削ぎ落した「真実」の記録。

 


 

マリとユリ

英題:The Two of Them/原題:Ők ketten

1977年/ハンガリー/スタンダード/カラー/98分/4Kレストア
字幕:森彩子 字幕監修:ナジ・アニタ

脚本:コーローディ・イルディコー、バラージュ・ヨージェフ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:マリナ・ヴラディ、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ

★家父長制が残る70年代ハンガリーを描いた本作に強く共感してしまうのは、50年を経た今でも世界が変わっていないからだろう。世代の離れた女性二人が連帯し、男性優位の結婚生活に依拠しない未来を選択する。その姿に、切実さとともに少しばかりの勇気をもらえる。
★少しずつ取り乱していくマリの姿は『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』のデルフィーヌ・セイリグを思い起こさせる。ミドルエイジ・クライシスと有害な男性性が切実に明かされる本作には、国境はおろか時代をも超えてしまう危うさがある。

マリの夫は偏狭な男で、ユリの夫はアルコールに依存している。彼女たちはつらい夫婦生活を乗り越え、慰めを求めあう。互いの葛藤を知ったふたりは、それぞれの人生を歩むべく、ある決断をする。結婚生活に絡めとられる二人の女性の連帯を、厳しくも誠実なまなざしで捉えた精緻な秀作。

 


 

ふたりの女、ひとつの宿命

英題:The Heiresses/原題:Örökség

1980年/ハンガリー、フランス/16:9/カラー/105分/4Kレストア
字幕:森彩子 字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

脚本:コーローディ・イルディコー、メーサーロシュ・マールタ 脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ 撮影監督:ラガーイ・エレメール
出演:イザベル・ユペール、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ、ペルツェル・ズィタ、サボー・シャーンドル

★持てる者と持たざる者。お互いを補完するための契約のはずが次第に壊れいくふたりの関係に、心揺さぶられる。そして宿命に絡めとられながらも凛として生きる女性たちの強さ!イザベル・ユペールの可憐な美しさも必見。
★同じ服を身にまとい、格好を揃えるイレーンとスィルヴィアは、ヴェラ・ヒティロヴァ『ひなぎく』のマリエたちを彷彿とさせる。代理出産をめぐり変容していく彼女たちの連帯に、大戦がもたらした体制と被迫害者という残酷な宿命が影を落とす。

1936年。ユダヤ人のイレーンは、裕福な友人・スィルヴィアからある相談を持ち掛けられる。スィルヴィアは不妊に悩んでおり、イレーンに自身の夫との間で子どもをつくってほしいと言う。そうして生まれた子どもに莫大な財産の相続が約束されたのだが、彼らの関係は悪化の一途をたどる。その頃世界ではファシズムが台頭し……。幅広い文化圏の映画監督と協業を続けるイザベル・ユペールは、その最初期の重要な出演作として本作を挙げている。この後メーサーロシュは「日記」四部作に代表される歴史映画を手掛けていくが、その契機としても見落とすことができない意欲作。
 

【上映作品】

『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』
原題:Szép lányok, ne sírjatok! 英題:Don't Cry, Pretty Girls!
1970/Hungary/89min

『アダプション/ある母と娘の記録』
原題:Örökbefogadás 英題:Adoption
1975/Hungary/88min

『ナイン・マンス』
原題:Kilenc hónap 英題:Nine Months
1976/Hungary/94min/R15+

『マリとユリ』
原題:Ők ketten 英題:The Two of Them
1977/Hungary/98min

『ふたりの女、ひとつの宿命』
原題:Örökség 英題:Heiresses
1980/Hungary,France/105min


後援:駐日ハンガリー大使館/リスト・ハンガリー文化センター
配給:東映ビデオ