子どもが働く 子どもたちが働く
第2のスモーキーマウンテンと呼ばれるゴミ集積所のパヤタス地区。8年以上の歳月をかけて撮影された本作は、急斜面の岩山でハンマーを振りかざして岩を砕く少年の姿から始まり、ダイオキシンの影響で水頭症になった少年と少女、過酷な荷物運びで背骨が曲がってしまう少年など、子どもたちの生活に密着して様々なエピソードが静かに祈るように展開していく。
三里塚闘争渦中の小川プロでドキュメンタリー映画作りを吸収し、映画キャメラマンとして活躍した瓜生敏彦が、ながく滞在するフィリピンで本作を製作。
被写体を見つめ、言葉によらず映像で豊かな情感を紡いでゆく。
瓜生 敏彦(本作監督)
1958年千葉県三里塚生まれ。映画専門学校を中退後、実家が小川伸介監督や田村正毅カメラマンが寝泊まりする三里塚闘争の拠点となったことから小川プロに所属。リアルな政治的な闘争と家族関係の中、ドキュメンタリー映画を学ぶ。
その後は小林正樹監督の「東京裁判」での撮影助手を経て、撮影監督として多数の映画・TVを担当。
次第に生活の拠点をマニラに移して世界をベースに撮影活動を行っていく。
1995年に世界的な批判が巻き起こった巨大なゴミ集積所スモーキーマウンテンで、NHKドキュメンタリー「フィリピン、スモーキーマウンテンが消える日」の撮影中、地元警察から銃撃を受けて瀕死の重症を負うも奇跡的に生還。回復後は再びフィリピンに戻り、最貧困地域のパヤタスとスモーキーマウンテンで、四ノ宮浩監督の3部作『忘れられた子供たち/ スカベンジャー』(1995年)、『神の子たち』(2001年)の撮影に参加。
その撮影の際に、スラム街の子どもたちに何が欲しいか?と聞くと「勉強をしたい」と答えが返ってきたという。2001年にその地域の子ども達が他の子ども達が恥ずかしい思いをすることなく、また働く合間にも勉強ができるよう、パヤタスとスモーキーマウンテンに無料の学校を自費で設立。現在はNPO法人クリエイティブ・イメージ・ファウンデーション ( Creative Image Foundation ) として活動中。現在まで約5.000人以上の子どもたちが卒業している。
そして本作『子どもの瞳をみつめて』が監督デビューとなり、瓜生敏彦が見つめ続けた子どもたちの世界の集大成であり、新たな第一歩となる。
主な映画撮影作品に黒沢清監督の『神田川淫乱戦争』(1983年)、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985年)、『危ない話 第2話・奴らが今夜もやってくる』(1989年) や、『ゴンドラ』(1987年 監督:伊藤智生) など。2014年には、マカティ市にTIU Theater(瓜生劇場)を建設。現在まで、劇場では定期的に子ども達に歌やダンス、楽器等のワークショップを行っている。その一つの成果として、2015年、瓜生が指揮を取って瓜生劇場にて発表された、パヤタス・スモーキーマウンテンの子ども達によるラップミュージカル「BAKATA」は、フィリピンの舞台芸術の賞、Aliw Award(アリゥアワード)にて、 子ども部門の最優秀ミュージカル賞を受賞。また、2016年、歌やダンスが上達した子ども達が自分で仕事が取れるよう、Tosh Entertainmentを設立。芸能界へ道が開けるようサポートしている。
2022年/フィリピン/93分
原題:Yield Final Version
監督:瓜生敏彦、ビクター・タガロ
プロデューサー:井上和子
統括プロデューサー:山口千恵子
撮影・編集:ビクター・タガロ
音楽:ダイワ・デ・レオン