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【関連企画】KYOTO GRAPHIE ローレン・グリーンフィールド写真展
京都新聞ビル 印刷工場跡(B1F) 入場無料
4/14(土)〜5/13(日)10:00〜17:00 *休:水曜(5/2以外)、 5/6
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https://www.kyotographie.jp/exhibitions/01-lauren-greenfield/
COMMENT FROM DIRECTOR 監督からのコメント
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』 は一代で巨万の富を築き上げ、億万長者になった一家の物語であり、アメリカ最大の家を建てるという彼らの壮大な計画、さらに財政危機後の彼らの葛藤を映し出した映画です。
本作は二人のユニークな人物を追いかけています。デヴィッドとジャッキー・シーゲル夫妻です。無一文から巨万の富を築いた二人の成功物語は、アメリカンドリームの実現を描くための完璧な舞台です。私が2007年にジャッキーと初めて出会ったとき、彼女と夫のデヴィッドは新居を建設中で、二人はとても誇らしげでした。それはフランスの宮殿とパリスラスベガス・ホテルを模したという約8500平米の邸宅でした。しかし2008年の恐慌後、ジャッキーとデヴィッドは財政の困窮により彼らの「ドリームハウス」を売りに出し、ライフスタイルの変更とビジネスの縮小を余儀なくされます。
夢の世界から現実世界に舞い戻ったジャッキーとデヴィッドでしたが、意外な謙虚さと率直さで新しい状況を甘受しようとする彼らの姿は、私たちが予想もしなかったものでした。困難に立ち向かう彼らの姿からは、その人柄や苦労の多かった半生が浮かび上がり、彼らの物語はその「普通の人の資質」で語られることになります。それは、彼らの運命の変化と同じぐらい予測不可能なことでした。
ジャッキーに初めて会ったのは、女性誌「ELLE」のためにドナテラ・ベルサーチの写真撮影をしていたときです。とてもフレンドリーでオープンな女性だと思いました。大胆で控えめなユーモアを持ち合わせ、なおかつまったく気取っていない。
ジャッキーは8人の子供の母親で、子供たちと一緒に自家用機でアメリカ中を旅し、アメリカ最大の家を建てていると教えてくれました。そして、彼女の家族を撮影するために、彼女の住むフロリダに招待してくれたのです。当時の私には、まさかこの撮影が、シーゲル家との三年にも及ぶ交流と、彼らの人生についての映画を作るきっかけになるとは思いもよりませんでした。
最初は写真を撮るために彼女を訪れましたが、彼女と彼女の家族のことを知るようになると、彼女の物語は映画でしか語りえないということがわかりました。ジャッキーは、約2500平米の豪邸に私たちを快く滞在させてくれました。そこは、いつも温もりに満ちていて、素晴らしき人々と様々な動物、そして気取りのないセンシビリティが存在している場所でした。驚くべきことに、宮殿、自家用機、高価なアンティーク、テーマパーク同然の子供たちの遊びといったものに囲まれた夢の世界に暮らしながらも、ジャッキーとデヴィッドはその控えめで謙虚な人柄や嗜好を保ち続けていました。
デヴィッドを大富豪にのしあげた30年にもわたるタイムシェアビジネスの拡大、そしてその報酬としての宮殿の建設は、金融危機によって阻まれました。私たちが予想だにしなかった方向へと彼らの人生がそれていったとき、とても幸運なことにジャッキーとデヴィッドは果敢にもこのプロジェクトに関わり続け、彼らの「旅」を記録することを私たちに許してくれたのです。撮影中に起きた運命の曲がり角を事前に予測することは不可能でしたが、シーゲル家の寛容さと率直さが、誰しもが学ぶべき教訓でもあるこのヒューマンドラマを作ることを可能にしてくれました。
監督 ローレン・グリーンフィールド Directed by LAUREN GREENFIELD
写真家/映画作家。1966年ボストン生まれ。ハーバード大学でビジュアルと環境を学ぶ。若者カルチャー、ジェンダー、消費主義に関する数々の写真作品を発表。写真作品は広く出版、世界中の一流美術館やギャラリーで展示及び収蔵され、アメリカン・フォトによって最も影響力のある現役写真家25人の内の一人にも選ばれた。
映像作品としては、『THIN』『kids + money』『Beauty CULTure』『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』を発表。摂食障害のための治療センターを扱った自身初の映像作品「THIN」は2006年サンダンス映画祭のコンペ部門に正式招待、優れたドキュメンタリー映画に授与されるイギリスの権威あるグリアソン・アワードを受賞した。また2009年「kids + money」でノンフィクションの映画と映画製作者に授与されるシネマ・アイ・オナーズ世界のノンフィクションショート作品のトップ5に選出された。
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』では、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞を見事受賞した。
アメリカン・ドリームの首領(ドン)シーゲル
町山智浩(映画評論家/コラムニスト)
「パンがないならお菓子を食べればいいじゃないの」
ベルサイユ宮殿の外の民衆は飢えていると聞いたフランス王妃マリー・アントワネットはそう言ったとされている。それは濡れ衣らしいが、この映画『クィーン・オブ・ベルサイユ』で、フロリダにベルサイユ宮殿を建てているジャッキー・シーゲルなら言いそうだ。
なにしろ、お金が無くなって、5匹の愛犬の世話係に給料が払えないからと、豪邸は犬のフンだらけになり(しつけしろよ)、マクドナルドを食べながら、ボトックスは欠かさないというハチャメチャな金銭感覚だからだ。
ジャッキーの旦那デヴィッド・シーゲルはアメリカン・ドリームの体現者だ。アメリカン・ドリームとは、具体的には自分の土地を持つことだった。ヨーロッパからアメリカに移民してきたのは、地主に搾取される小作人と、土地の所有が許されないユダヤ人だったからだ。
デヴィッド・シーゲルも貧しいユダヤ移民の食料品店の息子で大学も出ていないが、リゾート・マンションの共同所有権を販売するウェストゲート社を設立した。このビジネスは、1981年のレーガン政権に始まる低金利時代に成長し、特に2001年以降のジョージ・ブッシュ政権下の住宅バブル期に莫大な利益を上げた。
ウェストゲートの顧客は、シーゲル曰く「ウォルマートのお客さん」だ。激安スーパーマーケット「ウォルマート」で日用品のすべてを買いそろえるような貧しい庶民という意味だが、そんな彼らでも夢のリゾート・マンションを買えるようになったのは、サブプライム・ローンのおかげだ。
サブプライム・ローンとは、プライム(優良)のサブ(下)、つまり不良な客に住宅ローンを組ませること。住宅バブルの最中、銀行やローン会社は、たとえば年収400万円程度で貯金もない客に5000万円くらいのローンを貸した。普通に考えたら払えるわけがないのだが、当時は異常な勢いで不動産価格が上がっていたので、2、3年経ったら転売して、差額を儲ければいいと客に勧めた。このブームに乗って、ウェストゲート・リゾートは猛烈な電話セールスを行い、庶民にリゾート・マンションを売りつけた。
市場を野放しにしてシーゲルを超リッチにしてくれたブッシュ政権を生んだのは、どうもシーゲル自身らしい。『クィーン・オブ・ベルサイユ』の中でも彼はちらっと大統領選に「不法な」介入をしたと漏らしているが、2012年に経済誌ブルームバーグ・ビジネスウィークの取材に対して、こう告白した。「2000年のブッシュ対ゴアの投票日直前にわが社の自動電話セールス・システムを使ってフロリダ州民にブッシュに投票するよう8万件の電話をかけた。当日には従業員8千人を投票に行かせた」
この数は無視できない。なぜならブッシュはフロリダ州でたった327票の差で勝って、大統領の座をつかんだからだ。
ブッシュ政権は市場を放任しただけでなく、富裕層への大幅な減税を行った。有り余る金を注ぎ込んで、シーゲルはフロリダに自宅としてベルサイユ宮殿を模した総工費100億円の「城」を建て始めた。さらにラスヴェガスに52階建てのリゾート・マンションのツインタワーを建設。ところが2008年、住宅バブルが弾けた。
銀行は出資を引き上げ、ラスヴェガスのツインタワーは一本に減り、2009年にオープンしたものの分譲の購入者は集まらず、建設業者への支払いもできず、売却された。ベルサイユのほうも売ろうとして65億円まで値段を下げたが買い手がつかない。
『クィーン・オブ・ベルサイユ』のスタッフは最初、成功者の記録としてシーゲル夫妻を取材している間に金融崩壊が起こったらしい。シーゲルは撮影されながら「ラグス・トゥ・リッチス・トゥ・ラグス(貧乏から金持ちになったけどまた貧乏)だよ」と笑う。ジャッキーはグチる。「この金融危機を引き起こした証券会社や銀行は政府から公的資金を受けて助けられたけど、それよりも政府は普通の人たちを助けるべきだわ。私たちみたいな」アメリカの映画館はここで失笑に包まれた。
『クィーン・オブ・ベルサイユ』がサンダンス映画祭で初公開された2012年、シーゲルは映画の製作者を名誉棄損で訴えた。映画だけ観ると、ウェストゲート社が倒産寸前に見えるから営業妨害だと言うのだ。
さらに2012年はオバマ対ロムニーの大統領選挙の年でもあった。投票日前、7千人(4年間で千人減った)の社員にこんなメールを出した。
「君たちが誰に投票しようと自由だが、オバマ政権が続いて、彼の経済政策を実行するなら、私はリストラを行わざるを得ない」
オバマは富裕層向け減税を終わらせようとしている。また医療保険改革によって雇用者に従業員の医療保険を一部負担することを義務付けた。シーゲルは「君らの保険料払うくらいならクビにする。だからロムニーに投票しろ」と社員に言ったのだ。
「私のように懸命に働き続けてきた人間が、富裕層への増税によって、怠け者に施す金を負担させられようとしている。奴らには42年間働き続けてきた私のような贅沢をする権利はない。私はもう我慢できない。オバマが再選されたら、私は引退してカリブの海辺でのんびりする。従業員なんか気にせずに。諸君らのボスより」
結局、ロムニーは落選した。「税金をロクに払ってない奴らのことなど気にしない」というシーゲルみたいな失言が原因だった。でもシーゲルはリストラしなかった。経営状況は悪くないからだ。それってオバマの経済政策が悪くないからじゃないの?
2013年、シーゲルはベルサイユの売却をやめて、建設を再開すると発表した。完成は2015年になるそうだ。そして2014年、『クィーン・オブ・ベルサイユ』に対する名誉棄損裁判はシーゲルの敗訴に終わった。
2012年/アメリカ、オランダ、イギリス、デンマーク/100分
原題:THE QUEEN OF VERSAILLES
監督:ローレン・グリーンフィールド
出演:デヴィッド&ジャッキー・シーゲル一家ほか