「衝動をスクリーンに焼き付けたい」――
柘植勇人監督(『人間シャララ宣言』)による
鮮烈なる劇場デビュー作にして最期の作品。奇跡の劇場公開。
これまでも様々な作品や俳優を輩出し評価を高めている京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科から、新たな衝撃作が生まれた。
平成の暮れに撮影された本作には、何者にもなれずどこへも行けない鬱屈を纏った風景の中、常にどこからか空っ風が吹いている。それは監督、柘植勇人から見た平成であり、平成生まれである私たちの姿なのかもしれない。有名になりたい、何かを成し遂げたいというような夢や目的は、毎日の変わりない景色と仲間、或いは現実と怠惰によってくすみ始めてしまう。しかし、この映画における暖かさや優しさは、そんな空気を肯定してなお泥臭く生きることを私たちに訴えかけてくる。
【STORY】
何でも屋として怠惰な生活を送る陽平(松尾渉平)がある日家へ帰ると、暗がりの中で恋人の凛子(村上由規乃)が見ず知らずの“赤ん坊”を抱いて居た。「赤ちゃん、持ってきちゃったみたい」ポツリとそう答える凛子に驚き呆れる陽平。未来の無い生活の中、誘拐という形で強引に母になろうとする凜子。やがて陽平はその“赤ん坊”と向き合い始めるが…。
【映画監督・柘植勇人(つげ・ゆうと)】
本作の撮影以前から主演の二人は柘植と交流を交わしており、互いの人間性を理解、共有した上でキャスティングが行われた。凛子を演じる村上由規乃は柘植勇人を「誰に対しても平等な監督であった」と話す。陽平を演じる松尾渉平も「何者でもない自分をカメラ越しで受け入れてくれていた」と語る。つまり、柘植勇人はカメラの前に立つ役者や周りのスタッフ全てに映画の解釈の自由と想像を与えてくれていた。それは彼の社会に対する姿勢でもあるようにも思える。
そんな柘植勇人の姿は、私たちの映画制作を豊かにしてくれた。まだ何者でもないからこそ我々は自由であると言うかのように私たちを映画創造へと導いた。つまり、この映画は「映画の自由」を私たちに見せてくれている。残された私たちはこれからも映画を作り続ける中で、彼と映画を楽しんだことを思い出すだろう。そして彼と経験した「映画の自由」とその楽しさを観客と共有したい。
文・尾崎健
『ロストベイベーロスト』 Lost Baby Lost
2020年/日本/92分
出演:松尾渉平、村上由規乃、中村瞳太、吉井優、池田忠紀、松本卓也、上谷託充、岩井麗、朴香実、山本友香、高尾勇気、相良大起、上久保南海、福本純里、小川彪雄、竹橋団、谷野ひなの、鈴木卓爾、福岡芳穂、小柳圭子
監督:柘植勇人
脚本:相良大起
撮影・編集:米倉伸 照明:藤井光咲、大崎和 録音:福田星夏、林拓海
美術:松岡実花、原彩花 衣裳:蒲池遥希、相良大起
演出:上谷託実、安田雄一郎、遠藤海里
制作:池田有宇馬、小橋美友、相良大起
MAミキサー:齋藤愛子、池田紗月、仲村逸平 プロデューサー:尾崎健
挿入曲:「塹壕」(作曲・編音 : 上久保南海)、「バイバイ青春」(作曲・作詞 : ゲン 歌 : 石川太陽)、「そう伝えたい」(作曲・作詞 : 石川太陽、歌:石川太陽)
協力:京都造形芸術大学映画学科、京都造形芸術大学映画学科ラボ
制作:映像制作 離 配給:イハフィルムズ 宣伝協力:髭野純 宣伝デザイン:あきやまなおこ