革命キューバが生んだ、ドキュメンタリーの伝説的映画作家サンティアゴ・アルバレス(1919-1998)。
ラディカルな彼の作風は、ゴダールをはじめ世界中の多くの映画人に影響を与えた。
彼の生誕100年を記念し、世界を巡って作られた600本を超えるフィルモグラフィーから厳選した12本の作品を全作品日本語字幕付きで一挙上映。
今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『誰が撃ったか考えてみたか?』(2017)の監督トラヴィス・ウィルカーソンの1999年の作品『加速する変動―サンティアゴ・アルバレスのイディオム』も特別上映。
闘うブリコラージュ、サンティアゴ・アルバレスの映画
アルバレスの映画ほど「素材」という言葉を意識させる映画はない。ナレーションよりも文字、文字に力を与えるための力強い編集、そしてその編集を導くためのエネルギー源としての音楽。こうした発想は、映画作りをプロフェッショナルな場で学んだ人間から出てくるものではない。彼の映画においては、映像は必ずしも「動く映像」である必要はない。写真でも雑誌でも、いまそこにあるものを、動かなくてもいいから、そのまま使うこと。キャメラを動かし、ズームを使えば、動かないものでも動く。(…)
アルバレスの「得意技」と言われる瞬間的編集、そして彼の作品を表す語としてしばしば使われる「緊急映画(シネ・ウルヘンテ)」とは、外からの思想ではなく、彼らを取り巻く物質的条件によって規定されたものである。(…)
鋭角的な編集に映画の可能性を見たその態度はソ連の先駆者的ジガ・ヴェルトフをも思わせるが、その映像の連なりはもはや「モンタージュ」という言葉では表しにくく、むしろ意識の高い寄せ集め仕事として「戦闘的ブリコラージュ」という語を冠するべきかも知れない。
それまでのドキュメンタリー史をいったんご破算にした「緊急映画」は、果たして彼一代きりの技術で終わったのだろうか。………YIDFF 2011《シマ/島、いまキューバから・が・に・を見る》カタログ所蔵「闘うブリコラージューーサンティアゴ・アルバレスの映画を読む」(text:岡田秀則)より抜粋
サンティアゴ・アルバレス Santiago Álvarez
1919年、ハバナに生まれる。アナキストの父親をもち、植字工見習いやタイピストの仕事をしながら夜間学校で学ぶ。39年にアメリカ合衆国へ留学し、人種差別などの現実に直面する。42年に帰国し、テレビ局で働きながら左翼的文化サークルに所属し、トマス・グティエレス=アレアやフリオ・ガルシア・エスピノーサらとともにシネクラブを主催する。革命後はICAICに参加し、「ラテンアメリカニュース」の監督として、40歳にして映画制作をはじめる。ベトナムやアフリカ、東欧など世界中を駆け回りながら、音楽と映像を大胆にコラージュする手法で、驚異的なスピードで映画を制作し続けた。98年にハバナで死去。生涯に残したフィルムの数は600本を越える。
*写真はジャン=リュック・ゴダール(右端)と話すサンティアゴ・アルバレス。
ハリケーン Ciclón
1963年/30分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Aプロ】12/14(土)17:05〜/12/18(水)17:05〜
1963年にキューバを襲った巨大ハリケーン「フローラ」の爪痕を生々しく記録した、アルバレスの初期代表作。アニメーションや音楽、大量の報道映像を組み合わせて的確に情報を伝えながら、人々のまなざしを詩的に記録することに成功している。キューバ革命ドキュメンタリーの新時代を告げる作品。
今! NOW
1965年/6分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Aプロ】12/14(土)17:05〜/12/18(水)17:05〜
不屈のアフリカ系アメリカ人ジャズ歌手レナ・ホーンの力強い歌声にのせて、自由自在にスチル写真や記録映像がモンタージュされるアルバレスの代名詞的作品。映像と音楽がそれぞれの素材としての強度を保ちながら、手を取り合って人種差別を告発するこの映画は今なお新鮮なエネルギーに満ちている。
セロ・ペラド号 Cerro Pelado
1966年/35分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Aプロ】12/14(土)17:05〜/12/18(水)17:05〜
プエルトリコで開かれる中央アメリカ・カリブ競技会へ出場するキューバ選手団に随行したアルバレスのカメラは、アメリカ合衆国の思惑により海上で孤立する選手団の船と、プエルトリコの植民地的状況を映し出す。躍動するスポーツ選手の身体とその影でうごめく政治との関係性が暴かれる。なおこの船の名は、革命時の戦闘の名前(「剥き出しの丘」の意)に由来する。
ハノイ、13日火曜日 Hanoi, martes 13
1967年/34分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Bプロ】12/15(日)17:05〜/12/19(木)17:05〜
ハノイを襲ったアメリカ軍の北爆を、アルバレスが現地で記録し、のちに大胆な構成で仕上げた作品。ハノイの日常を人類学的に提示しながら、アメリカ軍の苛烈な爆撃による破壊を対置する。人々の繊細な身振りと、それを破壊する戦争への憎悪が新しい映像言語で紡がれるアルバレスの代表作。
勝利に向かっていつまでも Hasta la victoria siempre
1967年/19分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Bプロ】12/15(日)17:05〜/12/19(木)17:05〜
1967年にボリビアで命を落としたチェ・ゲバラを追悼するこの映画は、フィデル・カストロの命によって制作され、革命広場に集った大群衆の前で上映された。ラテンアメリカにおけるチェの功績を称えながらも、アルバレスは革命の英雄を偶像化することへの牽制も忘れていない。
L.B.J.
1968年/18分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Bプロ】12/15(日)17:05〜/12/19(木)17:05〜
冴え渡るアルバレスのコラージュがアメリカのジョンソン大統領を強烈に皮肉る。3部構成でキング牧師、ロバート・ケネディ、そしてジョン・F・ケネディを取り上げながら、そこにアメリカの資本主義社会が生み出したイメージ群(広告、雑誌、映画など)を反転させて利用している。
79歳の春 79 Primaveras
1969年/24分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Cプロ】12/16(月)17:05〜/12/20(金)16:20〜
ベトナムの英雄ホー・チ・ミンを追悼するこの映画は、ベトナム戦やキューバ革命、アメリカの反ベトナム戦運動のフッテージが用いられている。目まぐるしく変化する情動的な映像と音楽が最後にはフィルムの臨界点にまで達する様は圧巻。ゴダールも賞賛を惜しまない、アルバレスの最高傑作である。
離陸18時 Despegue a las 18:00
1969年/41分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Cプロ】12/16(月)17:05〜/12/20(金)16:20〜
自ら「政治パンフレット」と名乗るこの作品では、低開発に喘ぐキューバ東部地域での集中的な開発計画が報じられる。革命から10年が経過したにもかかわらず、問題が山積みである現状をアルバレスは大胆不敵にモンタージュする。革命の進歩をゼロに戻しかねない問題作。その後、クリス・マルケルの『一千万の闘い』(1970)で本作の大部分が引用された。
ニクソンのオペラ El drama de Nixon
1970年/10分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Cプロ】12/16(月)17:05〜/12/20(金)16:20〜
『L.B.J』ではジョンソン大統領だったが、この作品ではニクソン大統領がオペラ形式で皮肉られる。悲喜劇役者としてのニクソンの表情や身振りと、戦場の兵士たちの生々しい顔つきの対比が印象的。写真と音楽の組み合わせから生まれる語りには、冷静かつ情熱的な力強さがある。
大逃走 La estampida
1971年/10分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Dプロ】同志社大学寒梅館クローバーホールにて12/17(火)19:00~
ベトナム戦争が泥沼化しつつあるなかでニクソンが行ったラオス侵攻を報じたニューズリール。迎え撃つラオス軍の戦略や苦戦するアメリカ軍の情報が矢継ぎ早に示されながら、戦地の写真や映像が軽快な音楽とともに綴られる。皮肉で茶化した表現の裏に、どす黒い死の影がついてまわる。
虎は跳びかかり殺した…しかし…死ぬだろう…死ぬだろう…!!!
El tigre saltó y mató… pero… morirá…morirá…!!!
1973年/14分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Dプロ】同志社大学寒梅館クローバーホールにて12/17(火)19:00~
1973年チリ、CIAとピノチェト将軍の手により崩壊したアジェンデ政権へのアルバレス流の追悼歌。作品前半ではビオレタ・パラの歌声で反乱軍の残虐さを暴き、後半ではクーデター中に殺害された国民的歌手ビクトル・ハラの歌声を主旋律にして、祈りのように第三世界の連帯が謳われる。
祖国のために死ぬことは生きることだ
Morir por la patria es vivir
1976年/30分/監督:サンティアゴ・アルバレス
【Dプロ】同志社大学寒梅館クローバーホールにて12/17(火)19:00~
1976年、バルバドス上空でクバーナ航空455便が反革命テロリストに爆破された。乗員乗客73名が死亡し、そのなかにはアルバレスの妻も含まれていた。60年代の実験的かつ好戦的な作風からは一歩引きつつ、フィデルの演説やキューバ国民の語りから静かな怒りの感情と革命への意志を引き出している。
【参考上映】
加速する変動―サンティアゴ・アルバレスのイディオム
Accelerated Development–In the Idiom of Santiago Álvarez
1999年/56分/16mm/監督:トラヴィス・ウィルカーソン
【Eプロ】12/20(金)17:45〜 16mmフィルム上映
サンティアゴ・アルバレスの生涯を10章立てで辿った本作は、アルバレスの表現方法を用いながら、彼の作品断片と言葉を引用して組み合わせていく。それは、映像と言葉、また音楽との対位法的な実験的構成であり、またアルバレスが描いた20世紀の激動する世界を新たな視線で再構築する試みでもある。YIDFF 1999でのオリジナル版上映後、翻訳など細かな修正を加え、『Accelerated Underdevelopment』と改題し発表。今回はオリジナル版での上映となる。
主催:同志社大学今出川校地学生支援課、出町座
共催:アテネ・フランセ文化センター、グルーポ・シネ・ウルヘンテ、山形国際ドキュメンタリー映画祭
協力:La Oficina Santiago Alvarez del ICAIC、パッソ・パッソ