雲と霧はどちらも水蒸気から生まれます。
ひとつは空へと昇り、もうひとつは地上に立ちこめる。
もしかすると霧は、空高く飛び遠くを見渡せる雲を羨ましく思うかもしれません。
しかし結局のところ、雲も霧も、誰かの目に映る景色にすぎないのです。1949年に始まった白色テロから、70年近くが過ぎました。
しかし、何千人もの犠牲者を生み
多くの真実や涙を荒野と時間の流れの中に埋もれさせた
この長く続いた政治的悲劇を描いた映画は多くありません。
あの冷酷な時代のなか、人々は野心や誤った告発によって
かけがえのない命や青春、自由を奪われました。
そして最後には、人としての尊厳さえも踏みにじられ
愛する人を失った家族には、深い痛みだけが残されました。不安、混乱、疑念、怒り、悲しみ、そして恐怖。
何度もそれらを味わい続けながら生きてきました。
最も無実でありながら、最も大きな重荷を背負わされているのに
それでも彼らは本来受けるべき配慮や敬意を十分に受けているとは言えません。時が過ぎ、状況は変わったとしても
いまその顔に涙が見えないからといって
かつて涙が流されなかったわけではありません。だからこそ私は、犠牲者の家族についての映画を作りたいと思いました。
残酷で無情な時代の中でもなお、人間の輝きが見える——そんな愛の物語です。
苦しみの日々の中で人を前へと進ませることができるのは愛だけです。
人権や自由の価値を理解するためには
私たちは勇気をもって痛ましい過去と向き合わなければなりません。「古傷を蒸し返すな」と言う人もいます。
しかし、その苦しみがあったからこそ今の私たちが形づくられ
今日の自由と人権のもとで、過去をあるがままに見つめることができるのです。たとえそれが雲であろうと霧であろうと
私たちはあの風景を忘れてはなりません。私たち自身が
いつか誰かにとっての美しい風景となるために。________チェン・ユーシュン(本作監督)

『霧のごとく』大濛
2025/Taiwan/134min
監督・脚本:チェン・ユーシュン(『熱帯魚』『一秒先の彼女』)
出演:ケイトリン・ファン、ウィル・オー、9m88、ツェン・ジンホア、リウ・グァンティン、ビビアン・ソン