めぐり、めぐる、地獄ーーー。
『羊たちの沈黙』と並ぶ1990年代のアメリカ映画で
最初期に出現した最重要クラスの傑作が<4Kレストア>で蘇る!
今では破格のカルトムービーと認められているが、しかし正当な評価が定着するのには時間が掛かった。監督はエイドリアン・ライン。『ナインハーフ』や『危険な情事』などチャラいヒットメーカーとして80年代を駆け抜けた彼が、難解だと皆が匙を投げていたブルース・ジョエル・ルービンの脚本を得て、ストーリーテラー&ヴィジュアリストとしての天才性を発揮した。
物語は1971年、ヴェトナムの戦場から始まり、まもなく4年後のニューヨークに跳ぶ。戦地で重傷を負い、除隊後は郵便局員として働く主人公ジェイコブを演じるのは撮影時31歳のティム・ロビンス。彼はフラッシュバックする戦争の記憶と奇怪な幻覚に悩まされている。これはヴェトナム帰還兵のPTSDを扱った『タクシードライバー』の系譜に連なるものか――と思いきや、その域では済まない。現実と夢想が混濁するような、人間存在の不安を揺さぶる地獄巡りのイメージ(フランシス・ベーコンの絵画などが参照されている)が圧巻だが、やがて我々はこの悪夢の向こうにある驚くべき真相に立ち合うことになる。
タイトルは旧約聖書の創世記に登場する「ヤコブの梯子」にちなんだもの(ジェイコブはヤコブの英語名)。レッド・ツェッペリンの名曲『天国への階段』との関連も指摘されるこのモチーフに、ジェイコブの交通事故で亡くなった幼い息子ゲイブが絡む(ゲイブは大天使ガブリエルを指す)。息子役を無垢な笑顔で演じるのは、なんと『ホーム・アローン』で大ブレイクの直前、撮影時9歳のマコーレー・カルキンだ。ラストシーンは号泣必至。本作の後継作としてはコナミのホラーゲーム『サイレントヒル』が特に有名だが、リメイク映画が2019年に作られたほか、片山慎三監督の『雨の中の慾情』にも強い影響を与えたりなど、DNAはジャンルを超えて現在も広がり続けている。
…..Text by森直人(映画評論家)
『ジェイコブスラダー』〈4Kレストア〉Jacob's Ladder
1990/USA/113min
配給:Diggin' 提供:JAIHO
監督:エイドリアン・ライン
出演:ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、マット・クレイヴン、マコーレー・カルキン