香港を知る、香港を楽しむ、いま観るべき、日本初公開となる珠玉の7作品をラインナップ
酒と女に溺れる小説家、セレブ女優の逃避行、時代に翻弄される野球チームを描くスポ魂映画から
カンヌ国際映画祭サプライズ上映で話題となった『時代革命』の監督が描くラブストーリーまで
香港を知る、香港を楽しむ、いま観るべき7作品
【INTRODUCTION】
香港の言論と表現の自由が、中国により益々厳しくなっていると、最近懸念されている。もちろん映画業界への影響も計り知れない。特にクリエイターやスタッフ、俳優たちは香港映画の独自性とアイデンティティーについて、より深く考え始めている。また、従来の映画会社も娯楽だけのメジャー映画ではなく、もっと香港人の日常生活に寄り添うような映画を企画・製作するようになってきている。政治的な影響は、皮肉なことに香港映画の製作形態、内容、ジャンルをさらに豊かに、さらに強靭にした可能性がある。香港映画の魅力はエンターテインメントだけではなく、社会の変化、日常生活の問題などに真剣に取り組むという温かい眼差しであり、さらにその豊かな表現力の中にある。初開催となる「香港映画祭 2021」は、最近の香港の変化を反映して作られた商業映画を紹介し、香港映画のアイデンティティーを強く意識した映画たちに焦点を当てる。上映される7作品の内、新人監督のデビュー作が5作品も含まれている。香港のベテラン、スター俳優の新たな魅力を引き出した、新人監督たちの力量には驚くべきものがある。本映画祭の開催により、ぜひ香港映画の底力を感じていただき、日本の観客にもっと香港映画の魅力を知ってもらい、香港と日本の文化交流がより深く、より豊かなものになればと期待している。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により、地方のミニシアターの経営と番組編成が大変厳しくなっているのも事実である。関西と名古屋のミニシアターと本映画祭を共催することにより、映画文化の多様化に貢献するだけでな く、少しでも映画館が活気を取り戻して、盛り上げることができれば、まさしく本望である。
リム・カーワイ(映画監督・香港映画祭2021キュレーター)
【LINEUP】
【A】酒徒
監督:フレディー・ウォン
出演:チャン・グオチュー、アイリーン・ワン、ジョーマン・チャン
2016年/106分/原題:酒徒
◆釜山国際映画祭、バンクーバー国際映画祭、他
1960年代の香港、小説家のラウは生活のために作家として認められないジャンルである武侠小説や官能小説を書く。引っ越す度に、彼は多くの個性的な女性と出会い、恋に落ちる。女と酒に溺れた彼は、徐々に人生の深淵に落ちていく……。香港文学の最高峰のひとつで、香港では意識の流れの手法を最初取り入れた小説として知られる劉以鬯(ラウ・イーチョン)の「酒徒」を完全映画化。香港映画評論界の重鎮、フレディー・ウォンの長編デビュー作。ダメ男のラウを演じきったチャン・グオチュー(『牯嶺街少年殺人事件』)の演技から目が離せない。また1960年代の香港を見事に再現した美術や衣裳なども本作の見所だ。
【B】幸福な私(上映中止)
監督:ロー・イウファイ
出演:カラ・ワイ、カルロス・チャン
2016年/113分/原題:幸運是我
◆バルセロナ国際映画祭最優秀女優賞
チャン・カイヨク(ヨク)は幼い頃に両親が離婚し、母と共に広州へ引っ越した。母を病気で亡くし たあと、父の住む香港に戻るヨク。社会の底辺をさすらう中、認知症を患うツェー・ユエンファン (ファニー)と出会い、彼女のアパートに転がり込むことに。年齢も人生経験も全く違う二人が不思 議な同居生活を始め、反発し合いながらもやがて互いを受け入れていく。脚本家ロー・イウファイ の感動的な監督デビュー作。香港映画を代表する大女優のひとり、カラ・ワイは本作で3度目の香港 アカデミー賞最優秀女優賞を受賞した。
【C】深秋の愛(上映中止)
監督:リム・カーワイ
出演:アイリーン・ワン、パトリック・タム、シャーメイン・フォン
2016年/98分/原題:愛在深秋
◆マカオ国際映画祭最優秀女優賞
結婚10周年の日に、香港のセレブ女優が上海へ美術商の夫に会いに行く。夫と秘書との不倫に気付いた彼女は、その裏切りを受け入れられない。落ち込んだ彼女は夜の上海・外灘で、タクシー運転手と出会う。傷心のセレブ女優と、偶然出会ったタクシー運転手の桂林への逃避行を描くロードムービー。全編に散りばめた文学的なナレーションと、桂林の美しい景色が相まって、彼女の心境の変化と共に切なさを誘う。名匠スタンリー・クワンのミューズとして知られたアイリーン・ワンが久々にスクリーンに戻ってきた、記念すべき主演復帰作。香港の大手映画会社エンペラーが製作し、日本でシネマ・ドリフターとして知られるマレーシア人映画監督リム・カーワイの幻の日本未公開作。
【D】暗色天堂(上映中止)
監督:ユエン・キムワイ
出演:ジャッキー・チュン、カリーナ・ラム、アンソニー・ウォン
2016年/101分 /原題:暗色天堂
◆台湾ファンタジー映画祭、他
多くの尊敬を集め、社会的な名声が高い牧師が、女性の部下にセクハラで訴えられ、地位も名誉も瞬時に失った。5年後、二人はある集まりで偶然再会する……。過去を振り返ると二人は平行線をたどるように見えたが、ラストは我々の想像を超える真相が明らかになる。香港の人気劇作家、荘梅岩の舞台劇「フレンチキス」の映画化。スキャンダラスな内容はもちろん、スター俳優、ジャッキー・チュンとカリーナ・ラムが、巨匠アン・ホイ監督の『男人四十』以来、久しぶりに共演したことも話題をさらった。二人の全身全霊の演技合戦は必見!ユエン・キムワイ監督はカリーナ・ラムの夫でもある。
【E】最初の半歩
監督:スティーブ・チャン
出演:リウ・カイチー、ラム・イウシン、トニー・ウー
2016年/95分/原題:點五步
◆香港国際映画祭、香港アカデミー賞、他
1984年、英中共同声明が発表されて、香港の中国返還が決まった。未来が不明瞭になった中、香港初のユース野球チームが発足した。10名の野球選手たちは、試合では次々と失敗を繰り返すが、香港の歴史、運命と共鳴するかのように、時代に翻弄されながらも、常に諦めるか続けるかという心の葛藤と戦っていく。やがて、最大のライバル、日本の野球チームとの対戦の日が来た……。新人監督スティーブ・チャンの長編デビュー作ながら、香港版『KANO ~1931 海の向こうの甲子園~』と言われる、スポーツ青春映画の傑作。瑞々しい新人俳優たちと香港最高の俳優の一人で、先日急死したリウ・カイチーの胸に迫る熱演は涙なしでは見られない。
【F】夢の向こうに
監督:キウィ・チョウ
出演:テレンス・ラウ、セシリア・チョイ
2020年/120分/原題:幻愛
台北国際映画祭、香港アカデミー賞、他
統合失調症から回復したロックは小学校の先生になった。彼は美しいヤンヤンと出会い、彼女に一目惚れするが、自分の病気を打ち明けるか苦悩する。躊躇する中で、彼はまた病気になり、幻覚に取り憑かれるように。そして彼女の存在に疑いを持ち始め……。社会派と言われ、『十年』やカンヌ国際映画祭でサプライズ上映された『時代革命』のような政治的な話題作を作ってきたキウィ・チョウ監督が、本作で初めてラブストリーに挑戦した。2020年度香港映画として最高の興行収入を打ち出し、香港アカデミー賞にも数多くノミネートされ、コロナ禍が続いた香港において、輝かしい功績を残した。
【G】夜の香り
監督:ミンカイ・レオン、ケイト・ライリー
出演:グレゴリー・ウォン、 ラム・イウシン
2020年/78分/原題:夜香、鴛鴦、深水埗
◆ロッテルダム国際映画祭、香港インディペンデント映画祭、他
四つの短編映画から構成されたオムニバス。
『禁断の都市』(原題:出城記)世代が異なる二人の女性移民が田舎から都会へ出かけようとするが……。
『玩具物語』(原題:玩具故事)性格が異なる二人の兄弟が母が経営する玩具の店で宝探しを始める……。
『鴛鴦(ユンヨン)』(原題:鴛鴦)専門分野が異なる二人の中学校教師が、香港、九龍、新界でグルメ巡りをする。最後に辿り着く先は……。
『深水埗(サムソイポー)』(原題:It’s not gonna be fun)深水埗の区選挙では民主派の女性が立候補して、親中派に真っ向から挑戦する。タイの女性監督アノーチャ・スウィチャーゴーンポンとずっとタッグを組んできた、香港人撮影監督レオン・ミンカイ待望の初監督長編!
主催:香港映画祭実行委員会
助成:文化庁、ARTS for the future
協力:Golden Scene, Emperor Motion Pictures, Connoisseurs Production
宣伝:大福